海外留学報告書2
平成10年9月
Postgraduate Diploma,
University of East London
井上雅祐 

ロンドンは既に、秋の気配というよりは冬が近い事が感じられるこの頃です。
6月の審査会、7月の展示会を経て、97/98年度が終了しました。夏休みもあっという間に通り過ぎ、9月末から98/99年度が始まったという現在です。
今回は3月からの学校での活動を中心に報告します。

1 97/98年度後半
3月初旬にはprofessional studyの一環としてユニット毎のユニットトリップの成果発表が行われました。
これは敷地についての概要説明で、敷地を取り巻く状況の、社会的、文化的、政治的、経済的な側面からの理解を求められるものでした。発表のジュリーの場では、コースディレクター、チューター達やゲストクリティック、そして学内の教官等から質問や指摘がなされ、内容の更新を行いながら、最終的にはユニット毎にレポートにする作業を行いました。その後は、これに添付される形で各自が行ったサイトスタディの結果をレポートとして纏め、言わばプロジェクトの進捗を説明する役割としての内容を求められました。
時期的にプロジェクトが最終的な形にまとまる前にストーリーを作り上げる必要が有ったので、生徒の間では余り意味の無いワークという評価がなされていました。そのせいか、この教科を担当していたコースディレクターが98/99年度はプリンスオブウェールズという一見畑違いの学校へ移る事になりました。

97/98年度の我々のメインプロジェクトはベニスでのパブリックビルディングでした。
前回報告した、一見滑稽とも思えるいくつかのプロジェクト達、
1地面のダイナミズム
:ドローイングとモデル
2ランドスケープ
3インスツルメント
4ジョイント
を経て、ユニットトリップでのグループワークや個人ワークから得られる手掛りを元にプロジェクトを進める事になりました。
私のプロジェクトは最終的にはパブリックな施設としての多目的ホールを中心として店鋪やワークショップ更に集合住宅を含むコンプレックスとなりました。最初はベニス映画祭に関連させる目的(北野武氏のhanabiが話題となっていた時期でした)で映画館を提案し、人の集まる施設と言う位置付けで、チューター達とも合意していたのですが、形を作っていく段階で劇場になったりその名称は日々変化していき、最後の方ではvillage hall (村の公民館)と呼ばれるようになりました。
大きな考え方としてはベニスに多く見られるパブリックスペースとしての広場が持つ、インテリア化された外部空間という特質、則ち室内の延長空間としての広場という考えを導入し、人が集まるボリュームだけで機能的に完結させずに、オープンスペースを挟んで向かい合う別のボリュームに本来一体化されるべき機能を分散するというアイデアを発展させていくことになりました。
初期に作ったボリューム模型をチューター達が気に入ったことが幸いしてか彼等も非常に乗り気で色々なアイデアを貰う事になりました。
例えば、壁だけで屋根は要らないよとp.salterが言ったり。それを別のチューターと共にそれは無理が有り過ぎるとか反論しながら進めました。最終的には幾つかの機能を内包する分厚い煉瓦で出来た壁の内側に、木造の壁で囲われた天井の無いホール空間があり、この2つを覆う独立した大屋根が架かるという案に収束しました。
壁の厚みによってそれが面する敷地の性質或いは環境を、大袈裟な迄に表現するということが非常に新鮮でした。審査会一週間前になっても、この壁はもっと厚く....とかp.salterは言っていた位ですから、当時の忙しさは推して知るべしと思われます。

ともかく、4月末のイースター休み明けから6月中旬までは猛烈に忙しく、その上審査会直前に2度のジュリーが突如行われ、プロジェクトの修正を余儀無くされる者が出たり、作業の進捗状況にチューターが怒り出したり、あるいは反対に学生が指導方法の不満をブチ挙げたりして、最後迄忙しない日々でしたが、なんとかプロジェクトをまとめ、最終審査会に臨む事が出来たと言う印象です。

週に1或いは2回のチュートリアルをこなしながらプロジェクトを進めて行く事は想像以上に難しく、チューターが複数であるが故に生じる指導内容の一貫性の欠除や作業に掛けられる時間の制約などで、進んだかと思いきや後戻りという繰返しで、中々ペースが掴めずに苦心したというのが、私を含め97年度に日本から来た生徒3人の一致した意見です。日本ではチューターと頻繁に相談しながらプロジェクトを進めて行くというシステムが無く、経験が無かったということが大きな要因と考えていますが、他の以前から居る学生を見ていると我々のようには毎回チュートリアルを受けてはおらず、自分のペースで進めて、聞きたい事が有る時或いは呼び出しが係る手前などの絶妙なタイミングでチュートリアルを受ける事にしているようで、もう少し自分のペースを優先するということが必要である事が理解できました。我々も一時試みようとしましたが、一つは建築家peter salterと共にプロジェクトを発展させ、彼自身の手法をじっくり見たかったという事と、1年目であることと語学的な問題から極力彼等の言う一字一句を逃さぬ様にと考え、結局我々同年代の3人は最後まで規則正しくチュートリアルを受ける事にしました。

しかし、その勤勉さの御陰か、真面目にチュートリアルを受けていた我々は無事4年生をパスできました。我々のユニットでは、余り学校に来なかった学生2名が不合格となり、次年度をパートタイムとして4年生を過す或いは学校を変えるかという厳しい選択を迫られる結果となりました。また隣のユニットでは全員が再提出となるなど、実に悲喜交々な状況であったことが後日判りました。
全体では3割がパス、4割が再提出再審査(我々3人の内一人がこれに該当し無事合格)そして残りが不合格という比率です。最終的には半数強程度しか5年生に上がれなかったのではないかと思います。

最終的な合否判断は以下の4つの教科から成ります。
●design
●technical study
●professional study
●dissertation
この内一つでもパスできないとrefferという再提出で9月再審査になる訳です。designとtechnical studyは実際には内容的に連続していますが、採点教官が別と言う事で別れています。ここでは構造体だけのアクソメと平面断面図、各種詳細図や詳細模型(私の場合は1/50の屋根の骨組み模型)、環境(光/換気、暖冷房)への対応を示す図面などが求められました。professional studyは先程述べたようなプロジェクトの進め方をドキュメントにするという内容です。dissertationは論文です。来年の1月提出に向けて、担当のチューターと打ち合わせながら進めて来ておりますが、様々な人を学内学外問わず紹介されて会いに行ったリそして勿論参考文献の読破などもあって中々大変な作業となってます。

2 レクチャー等 
毎週水曜日のレクチャーは秋と春学期にかけてsustainability(建築が為すべき環境への対応)、秋学期にtechnical study、春学期にprofessionに関するレクチャーがありました。特にこれらに関してはレポートや出席を取ると言ったことも無く、位置付けの理解に苦しむものでありましたが、学生に少しでも現実面或いは社会的な側面からの建築の見方や見れら方を教える主旨のもであったと今では理解しています。
常に学校内で何かが催されている雰囲気があり、不定期でながらも学外からデヴェロッパーや著名建築家などを招聘したり、インドや英国の建築家達のレクチャーやワークショップも開催されたりと、ロンドンならではの無国籍な出合いや機会が得られました。
他の大学でも同様のレクチャーや展示会が頻繁に行われており、しばしば出掛けて行き、他学校の学生等と知合いまた意見を交換するなどを行いました。

3 98/99年度スタジオ
今年度のスタジオは16名となり、昨年とほぼ同じです。今年は新設の大学院学生2名の日本人を含めてですから、実質14名のディプロマなので実際には若干減った事になります。
今年のプロジェクトはロンドン市内の敷地、キングスクロス地区の再開発と言う事で昨年とはやや趣の違う印象です。主題は建築におけるrules, regulations and standardsがどのように建築の豊かさもたらす機構に変化されるのかを理解する事で、その為に建築に関わる規制が建築の可能性にどのように影響を与えるのかを探ることから、今年のプログラムが始まります。そして、pocketという概念を、都市からインテリアまでの異なるスケールで変化して行く空間同士を結び付け定義付けるものとして理解し、これについても都市、街区、建築の3つのスケールで検証することになります。
ユニット旅行については何も情報がない現在ですが、候補としてはアトランタ、バルセロナ、ベルリンがあるそうです。しかし、もしかしたらひたすらロンドンにてサーベイを行う一年になるかもしれません。チューター自ら今年はタフな年となると言い切っているようで、昨年以上に忙しい一年になりそうです。
しかも、丸一年のマスターコースに合せる為、我々ディプロマの生徒も本来有るべきの春休み返上を予告されております。

4 その他
約2ヶ月半という夏休みには幸運にも多くの機会を得る事になりました。
8月末から北欧へ旅行し、建築デザインとその国の経てきた歴史及政治的な関係を実感する事が出来、建築に対する新たな見方を得ました。
更に、最近では欧州営業所、杉山所長の御好意により汐留電通本社プロジェクト一行のベルリン訪問に同伴する機会を得ました。360度工事中という風景には素直に圧倒され、驚きました。しかも著名な建築家が多く参画していると言う事もあり、大変に興味深く印象に残るものでした。また、近代建築の名作なども実際に目にする事が出来、非常に有意義な数日間となりました。
その前後にはロンドンのロイヤルアカデミーでの安藤忠雄展の展示手伝いやオープニング参列、講演会出席と、短期間の内に驚く程の密度で様々な場所で様々な体験をする事が出来ました。最後にはその講演会にて大学の同級生に偶然出った事が、ロンドンという場所の可能性が一層強く印象付けられる出来事となりました。

以上


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