イギリス人の見たスペイン

9月19日から26日まで、スペインに行ってきました。これはその時の見聞記。

はじめに
スペインの地図

最初に、今回わたしが訪れた場所について、簡単なご紹介を。

スペインは地中海沿岸、緯度は38度〜39度の間で、日本で言うと仙台近辺にあたります。(本当に、ヨーロッパって、北にあるんですね。)それにもかかわらず、気候は温暖。平均気温は年間を通して23度、一番寒い1月でも18度です。晴天の日数は、年間325日というわけで、世界保健機構(WHO)からも、世界で二番目に最も健康にいい気候というお墨付きをいただいています。(ちなみに第一位は、カリフォルニアですが、犯罪率や自殺率を考えるとそんなに健康によくないかもね。)

ちょっと他の地域のスペインと違うと思われる点は、外人が多いということではないでしょうか。別荘を買って、年間数週間をここですごす人たち、また、引退して移住してきた人たち、また半年ずつ本国とこちらとですごす人たち、というように形態は様々ですが、実に多くの外国人が住んでいます。中でも、一番多いのは、海と浜辺を愛するイギリス人とドイツ人のようです。その他、フランス人、オランダ人、スカンジナビアの国々の人たちも見られます。また、マドリッドなど、スペインの他の地方の都市居住者の別荘も少なくありません。

今回は、アリカンテのマリーナで、半年をここで過ごすイギリス人たちと話す機会を多く持ちました。こうした人たちは、ほとんど、50代で早期退職をし、引退生活を楽しむ御夫婦たちです。

今回わたしが訪ねたスペインはこんなところですので、たぶん他のスペインの地方とは地元の人々の生活、気質など、ずいぶん違うに違いありません。便宜上、ここでは、「スペイン」と呼ばせていただきますが、あくまでも、「アリカンテとその周辺」を意味しますので、ご了承ください。

リトル・ブリテン
アリカンテのマリーナ

上記のような事情から、ここには、ちょっとしたイギリス人コミュニティーが築かれています。ソーシャルクラブもいくつかありますし、イギリス人向けの店(レンタルビデオショップとかバー、レストラン、など)もあります。また、イギリスの新聞も手軽に手に入ります。デイリー・メールなどは、現地の天気予報の入った特別版を現地で印刷しているくらいです。それから、無料の英語の新聞もイギリス人コミュニティーのために出版されています。こう書くと、本当にロンドンの日本人コミュニティーとそっくりです。

アリカンテのマリーナでは、英語のニューズレターがイギリス人の利用者によって自主発行されていたり、英語の新しい雑誌が手に入るとみんなで回し読みをしたりしていました。

イギリス人はスペインの郵便制度をあまり信頼していません。イギリス宛ての郵便は、休暇でここを訪れるイギリス人に、イギリスで投函してくれるように頼みます。そんなわけで、わたしたちも、帰る日に、締め切り間近の税金の申告用紙を預かって来ました。

スペイン人の運転
オリウエラ市庁舎

イギリス人は口をそろえて、スペイン人の運転の無謀さを訴えます。わたしが見ていてもかなりこわいです。特にこわいのが、追い越し。まず、スペイン人は、前の車を追い越したいと思うと、とりあえず反対車線に出ます。自分の車の前に何台連なっているのかはそれから後で判断します。そして、とりあえず抜けるところまで抜き、前から対向車が近づいてきたら、元の車線に再び飛び込みます。これは、絶対にロンドンではできない技です。ロンドンでは、横入りを嫌って、車間を極端に狭くとるからです。このあたりでは、皆、慣れているのか、特に急ブレーキを踏むようなこともなく、こういう車を入れてあげているようです。

イギリス人がもう一つ驚くのが、駐車のマナー。交差点の角でも平気で停めます。

あるイギリス人女性がスペイン人が車を停めるところを見ていたそうです。かなり危ないなあ、と思っていたら、やっぱりバンパーを後ろの車にぶつけていたということ。彼女は見ていてはらはら。きっと、後ろの車からは、運転手がカンカンになって飛び出してきて、一騒動、わたしが証人にならないといけないかしら・・、などという思いが頭をよぎったそうです。でも、とその女性は続けます。その後ろのトラックの運転手は何もなかったように、前の車に近づき、その車を誘導し始めました。なんと、自分のバンパーにぶつけて停めるように指示しているのです。まあ、スペイン人って、本当に気持ちがゆったりしているのねえ。イギリス人だったら、怒り爆発、すぐにすさまじい口論になるところだけど、なんて感心していました。

しかし、彼女は、いや彼女のみならず、イギリス人たちは重要なポイントに気がついていません。それは、スペイン人・イタリア人・フランス人など南ヨーロッパの人たちにとっては、バンパーは車がぶつかった時の緩衝材にすぎない、さらには、バンパーはぶつけるためのものである、ということです。イギリス人にとっては、バンパーも車の一部です。だから、バンパーが触れたということは、車をぶつけたも同じ。そこで、バンパーがぶつかれば、事故ということになるわけです。

スペインの報道
トーレヴィエッハの教会

イギリス人の家で、スペインのニュース番組を見ていたら、その日に2件のバス事故がありました。あんな無謀な運転をしていたら、不思議はない、とイギリス人 たちは口をそろえていっておりました。

カメラは事故現場から、病院へと事件を追います。被害者へのインタビューはよいのですが、イギリス人たちが驚いていたのは、首を固定され、点滴の管に囲まれた患者の口元に5個も6個もマイクが突きつけられていたことです。これはイギリスではありえません。イギリス人の驚きをよそに、「日本でもありそう。」とわたしは平然とその場面を見ていたのでした。

また、別の番組では、スペイン人の女性が何か暗い表情で話していました。(内容はわからないのですが。)話すうちに、ぐわっと顔を崩して、大泣きを始めました。で、またイギリス人たちは驚き。イギリス人だったら、まず必死に涙をこらえる。それでも、声が震え始めると、「ソーリー」と言って、声を押し殺して、涙をこぼす。これが、イギリス人の正しい悲しみの表現のしかたです(とされています)。

イギリスで見ないもの

日本に初めて来たイギリス人のように、今回わたしがスペインで発見して驚いたものがあります。それは、自動販売機の多さです。

もちろん、イギリスにも自動販売機はあります。ただ、屋外に設置されているものはほとんど見ません。というのも、バンダリズム(破壊行為)が横行しているからです。一晩、自動販売機を屋外に放置したら、お金はもちろん、中の商品まで全部盗まれ、滅茶苦茶に破壊された自動販売機はたぶんの道のど真中に放置されているでしょう。

そんなわけで、スペインの自動販売機の多さには、治安のよさと地元の人々の心がすさんでいないことが感じられて、うれしくなってしまうのでした。

スペインで流行のもの

100円均一ショップならぬ、100ペセタ均一ショップが大はやりだと言うことです。実際、トーレヴィエッハの街をちょっと歩いただけで、3軒もの百均ショップを見かけました。

日本人丘
ラ・シエスタの町

アリカンテから車で約30分ほど南に行くと、トーレヴィエッハという町があります。ここは国際的なリゾート地。観光客はもっぱら家族連れで、パッケージツアーよりは個人が多いところです。そして、街の周辺では、十数年前から住宅開発が続いています。これらの住宅は、70%くらいが別荘、残りの30%くらいが定住者(外国から引退して移住する人が多い)の住居となります。ほとんど全部建て売り分譲住宅なので、一区画に同じ形の住宅が数十軒並び、壮観な眺めです。もっとも、最近では、建設が追いつかず、売買契約のほうが、建設開始より先になるケースが多いので、かなり特注がききます。そういう意味では完全建て売りというわけではないかも。でも、外観は全部そっくりです。

こういった住宅地の中でも、かなり古いものの一つに、"La Quesada" と呼ばれる "Urbanisation" (新興住宅地)があります。この地区の一角に、日本人丘と呼ばれる高級住宅街があります。プール付きの大きな一戸建て住宅が並んでいます。かつて日本政府が「シルバーコロンビア計画」と呼ばれる、悪名高い姥捨て山計画を発表したのを、覚えていらっしゃるでしょうか?そう、気候のよい、オーストラリアとスペインで、お年寄りに余生をすごしていただこう(と言えば聞こえはいいですが、要するに老人の輸出)というあの計画です。結局、年をとってから外国語を覚えて、習慣の違う外国で暮らすのはたいへん、また、遠くてなかなか家族に会いに来てもらえないなどの理由で、政府の計画に乗った人はあまり多くなかったようです。実は、この日本人丘は、その時、日本政府が日本の老人のために買いつけた土地だったのでした。こんなとんでもない計画がここまで現実に進んでいたというのは、驚きでした。

ニュー・ディール政策
住宅工事現場

現在、イギリスでは長期失業中の若者を試験的に企業に雇ってもらう、という政策が試験的に行われています。もし、紹介された仕事に応じない場合は、失業手当の支給を停止される、というものです。このようにして、国の保護に依存する体質を矯正し、長期失業者をなくす、というのが政府の目的です。

そこで提案。こういった長期失業中の若者をスペインのこの地方に送り出してはどうでしょうか?物価の安いスペインでは、きっと賃金も安いでしょうが、扶養家族のいない若者だったら、困ることはないのでは?ビールは安いし、天気はいいし、ビーチは近いし、言うことないような気がするんだけどな。

最後に・・・留学のすすめ

というわけで、1週間の短い滞在でしたが、毎日スペイン語に囲まれ、(半日以上は英語に囲まれていましたが)スペイン語のテレビを2時間くらい見ていると、このまま1ヶ月くらいいたら、わたしはすごくスペイン語がうまくなるのではないか、という気がしてきました。それまでも、本でスペイン語を勉強していましたが、やっぱり、現地での1週間ほどの効果はなかったようです。なんといっても、やる気のわき方が違います。簡単なことでも、通じるというのはうれしいものではないですか。ちょうど、テニスで、返球が2回くらい続いて、なんとかゲームになり始めたかな、っていう感じです。

でも・・・、きっと英語の時と同じように、2〜3ヶ月くらいすると、今度は全然上達しないー!という壁にぶつかるんだろうな。

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