クリケットとイギリス文化 (3月15日)

日本にいた頃、日曜の午後の幸せなひとときは、大相撲中継を見ながらうたた寝をすることでした。相撲自体は大好きで、週日は「大相撲ダイジェスト」を手に汗握って見たものです。しかし、中継となるとどうしても眠くなってしまうのです。あの立ち会いと立ち会いの間の間(ま)の長さがくせものなのですね。

イギリスに来てその大相撲中継にとって代わったのが、クリケットです。クリケットというのは、ご存知の方も多いでしょうが、野球に似た、イギリスの伝統スポーツです。村の草地 (village green) に点々と散らばる白いシャツに白いズボン姿の選手たちは、典型的なイギリスの夏の田園風景です。夫につきあってテレビ中継を見ることは見るのですが、正直言って、おもしろさがわかるほどの理解の域にわたしは達していません。とにかく、どえらく時間のかかるスポーツなのです。最近はそのへんを考慮して、"One day cricket" なる1日で勝負のつく試合もできましたが、正式の試合は4日間に渡ります。また、野球と違って、一方のチームの11人の選手が一人を残してアウトになるまで一方的に打ちまくります。(これが1イニングス。)日が暮れてボールが見にくくなるまで続く一日の試合の間には、ランチやティーのお休みも入ります。そして、実況中継のほうは、絶対に興奮せず、モノトーンな口調で、淡々とした解説が続く。・・・と来れば、わたしのような初心者はもう眠りに落ちるしかありません。(ときどき、クリケット・ファンを自認する夫も隣りで舟を漕いでいるのに気がつくこともありますが。)

先日、各地のカウンティー・クリケット・クラブが1999年のシーズンに向けて、新しいチームアイデンティティーを発表しました。現役選手をモデルに披露されたユニフォームは色とりどりの斬新なデザイン。と同時に新しいチームネームも発表。Yorkshire County Cricket Club は Yorkshire Phoenix に、Sussex County Cricket Club は Sussex Sharks に、という具合です。なんでも、クリケットの観客がだんだん減っているとのこと。若いファンとスポンサーをひきつけるための苦肉の打開策のようですが、伝統を重んじる筋(懐古派)からは反発があるようです。わたしはやっぱりクリケットはあのシンプルな白装束が美しいと思います。新しいユニフォームは、まるでクリケットのアメリカ化のようで残念でなりません。そのうちに、もっとエキサイティングな試合展開をと言うことになり、1イニングスも3アウトの短いものになってしまったりして。もし、クリケットの実況中継にも、マリー・ウォーカー(Murray Walker、F1グランプリの解説者)のような、脳動脈ぶっちぎれ・絶叫型解説者を起用するようになったら、わたしはもうお昼寝ができなくなるじゃないですか・・・。


謎のクリスマスハンパー事件 (12月23日)

いよいよクリスマスも秒読み段階。この時期になると思い出すのが、去年の謎のクリスマスハンパーである。クリスマス・ハンパー (Christmas hamper) というのは、かわいい籠に入った、クリスマスの食べ物や飲み物 (Christmas goodies) の詰め合わせのこと。

去年のクリスマスも近いある朝出勤すると、わたしの机の上には、明らかにハロッズのクリスマスハンパーの中身と思われるものがいくつかのっていた。具体的には、ハロッズのクリスマスプディングとハロッズのミンスパイ、それにハロッズのクランベリー・ゼりーに、ハロッズのショートブレッドビスケットなどである。その前日、わたしは有給休暇をとっていたのだが、同じ部屋で働く同僚によると、わたしが休んだ日の朝(たしか月曜日だった)にそれぞれの(わたしの部屋では他に3人が働いている)机の上に、二〜三個ずついろいろなものが置いてあったそうだ。ちなみに、女性3人、男性1人である。もっとも、男性のほうは気味悪く思ったのか、自分はこういうものは好きじゃないから、と言ってわたしにくれた。わたしは喜んでいただきました。たぶん、そのハンパーの中で一番高価な商品はシャンペンだと思われるが、それは、もう一人の既婚女性の机の上に置いてあったそうだ。(残りの一人は妙齢の独身女性である。)

わたしたちは、贈り主の正体をああでもない、こうでもない、と議論した。日頃、わたしたちがお世話をしている営業マンたちにしては、やることが地味すぎる。彼らなら、大々的に贈り物をし、思い切りわたしたちに恩をきせているはずである。結局、正体はわからなかった。やっぱり、聖ニコラスだろうか・・・?


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