Anglo-bites

**イギリスつまみ食い**

番外編

10月31日

     ● イギリスの花火シーズン

日本の花火シーズンといえば夏ですが、イギリスの花火シーズンは、11月5日を前後 とする冬です。夏にも、野外コンサートの最後に、花火が打ち上げられることもあります が、この時期ほど大規模で、一般的ではありません。というのも、夏は日が長いので、子 供がおきているうちはまだ明るいからです。(北のスコットランドでは、夜の10時くら いまでうっすらと明るかったりします。)冬の花火の難点は、なんといってもやっぱり 寒いことでしょうか。

11月5日は、Guy Fawkes' Day(ガイ・フォークス・デー)または、Bonfire Night (bonfireはたき火です。)などと呼ばれます。これは、1605年11月5日の国会議 事堂爆破未遂事件 (the Gunpowder Plot) に由来します。この日、ガイ・フォークスらカ トリック教徒が(実際にはガイ・フォークスは首謀者ではなかったという説があります。 実際の首謀者は、他の人だったのですが、ガイ・フォークスのほうが響きがよくおぼえや すかったので、この名前のほうが歴史に残るようになったということです。世のお父様、 お母様方、子供の名前選びはどうぞ慎重に。)、国会議事堂に火薬を詰めた樽をおき、議 事堂の爆破を企みました。カトリック教徒を弾圧していたジェームズ一世と大臣たちを亡 き者にしようというわけです。ところが、この計画には密告者が現われ、議事堂の地下室 に潜んでいたガイ・フォークスをはじめとする一味は捕まり、事無きをえました。ガイ・ フォークスらは、この後拷問にかけられ、翌年絞首刑に処されます。

11月5日には、このだいそれた事件が未然に防がれたことを祝って、各地で花火大会 が行われます。子供たちは、端切れなどを使って、ガイ・フォークス人形を作ります。こ の人形と一緒に、街頭に立ち、"Penny for the Guy"と道行く人々に小銭をねだります。 こうして得たお金で、花火を買い、11月5日のガイ・フォークス・デー当日の夜に、ガ イ・フォークス人形を燃やしながら、(ここから、Bonfire Night と呼ばれるようになっ たわけです。)その周りで花火をします。公園や野原などでは、これを大規模にし、 ショーとして演出した花火大会が、地方自治体などの主催で行われます。

● 子供にとっての稼ぎ時

このガイ・フォークス・デーを中心に、10月31日のハロウィーンからクリスマスま で、子供にとってはお小遣い稼ぎのシーズンになります。

ハロウィーンは、イギリスではアメリカほど盛んではありませんが、それでもこういう お祭りはすぐに定着するものです。特に、子供にとって得になるような習慣は。

子供のための仮装パーティーが開かれたりします。また、各家庭を子供たちが訪ねて、 "Trick or Treat"(いたずらかお菓子か)と聞く習わしも実行されていますが、わが ビーン村では、ここ数年静かです。(もしかして、あの家はケチだという噂がたってい て、我が家が避けられているだけかもしれませんが。)数年前、10月28日に子供たち の訪問を受けました。ハロウィーンには早すぎましたので、10月31日に出直してくる よう追い返しましたが、まったく自分勝手な子供たちです。実はその年のハロウィーンは 月曜日でした。月曜日になると、学校は始まるし、(その前の週一週間は学校の半期の休 みにあたります。)翌日は学校があるので、金曜日の28日にハロウィーンをしてしまお うと考えたわけです。

"Trick or Treat"とは言いますが、もしお菓子を準備していなかった場合は、お金でも いいことになっています。

そして、クリスマスが近づくと、クリスマス・キャロル (Christmas carol) という小 遣い稼ぎの手段があります。伝統的には、大人によって合唱指導を受けた子供たちが、大 人の引率のもと、近所の家庭を訪れ、戸口でクリスマスの歌を披露し、お礼にお金をもら うというものです。こうやって集めたお金で、家族にクリスマス・プレゼントを買ったり します。(チャリティーのための大人バージョンもありますが、これは、家庭訪問ではな く、繁華街やショッピングセンターなど人の集まるところに立って、行われることが多い ようです。)ところが、これも最近は、安易な子供の小遣い稼ぎ手段になってしまってい ます。やはり何年か前のことですが、12歳くらいの男の子二人が、我が家のドアを叩き ました。ドアを開けると、この二人は思い切りへたくそな歌を、なるべく早く終わらせよ うという意図丸出しに、ものすごい速さで歌ってくれました。向いの家に住むイギリス人 は、この子供たちが彼女の家に来た時、あまりの歌の下手さに、彼女の持っていた音楽テ ープを聞かせ、「これがクリスマス・キャロルっていうものよ。」と教えたそうです。

ハロウィーンもクリスマス・キャロルも、密接な地域社会があってこそ成り立っていた 習慣だと思います。たぶん、昔は子供は社会の共有の財産という意識があったのでしょ う。その地域社会のあり方が変わってきている以上、こうした習慣も残念ながら変わらざ るを得ません。道であっても挨拶も交わさない知らない人のところに、ハロウィーンやク リスマスだからといって、金をねだりに子供が出かけて行くのを親はどう思っているので しょう。また、安全の面でも不安な点があります。アメリカ留学中の日本人高校生がハロ ウィーンの夜、間違って知らない人の家に行き、泥棒と間違われて射殺された悲しい事件 がありましたが、アメリカでは、ハロウィーンに他人の家を訪れる時には、予め約束をし ておくようです。最近では、イギリスでも、子どもがよその家を訪ねるのを、少し距離を おいて大人が見ていたりするようです。わたしがビーン村に引っ越す前に住んでいた南ロ ンドンでは、ハロウィーンの日に、夜8時すぎ、10歳にも満たないと思われる子供ばか り5〜6人が大人の付き添いなしに、家々をまわっているのには驚きました。

● もうすぐクリスマス

10月25日には、イギリスの夏時間も終わりました。(日本との時差は、これで9時 間になります。)日暮れは早まり、いよいよ冬の到来という感じです。そうなると、イギ リス人が心待ちにするのが、クリスマス。すでに、スーパーマーケットには、クリスマス 商品が並び始め、人々をわくわくさせています。

というわけで、"Anglo-bites"本編の方でも、11月中旬くらいから2回に分けて、イ ギリスのクリスマスの習慣を特集したいと思います。どうぞ、お楽しみに。

     ● 今年のハロウィーン (追記)

10月30日。我が家に2組の子供たちが trick-or-treating にやってきました。夫 が "Wrong day!"(今日じゃないぞ)と言って追い返したそうです。そして、本番の翌日、 10月31日の夜は、あいにくの雨降りのせいか、我が家を訪れた子どもはゼロでした。 そこで一言。「自分の都合に、伝統のほうをあわせるんじゃない!」

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