● コーンウォールが生んだ究極のお弁当 - Cornish pasty の話
胸を張って言っちゃいますが、わたしはグルメではありません。むしろ、味覚は
あまり発達していないほうだと思います。でも、食べ物に対する興味だけは人並み
以上にあります。学生時代の夢は、山崎製パンに就職して、ピザまん、鬼まんに続
く新中華まんじゅうの開発を担当することでした。そういうわけで、わたしの食べ
物にかける情熱と好奇心をここでときどき披露させていただきたいと思います。
で、第一回は "Cornish pasty" の巻。
本場はその名の通りコーンウォール地方ですが、現在ではイギリス中で(世界中
でという説もありますが)愛されています。肉と野菜(ジャガイモ、玉ねぎ、ス
ウィードと呼ばれるスウェーデンカブラ)をパイ皮で包んでオーブンで焼いたも
の。このパイ皮については、ショートと呼ばれるさくさくのものとパフと呼ばれる
ふわふわのものとの2種類があります。(市販のものはパフが多い。)起源につい
てははっきりしませんが、ヘンリー8世(1491−1547)の時代にはすでに
存在したという説が有ります。
コーニッシュ・パスティーはコーンウォールの生活に深い関わりを持ちます。
コーンウォールの伝統的な産業は鉱業でした。特に、錫の国内有数の産地として有
名です。コーニッシュ・パスティーも鉱夫たちの弁当として愛されてきました。家
族の人が作ったパスティーを持って仕事にでかけるわけです。パイ皮は一方の端で
まとめられており、(ちょうどがま口の金具部分のようになっています。)ここを
手で持って食べます。そこで鉱山の中でも手軽に食べられます。また、汚れた手で
持った端の部分は食べ終わったら捨てるだけ。焼きたてのパスティーは1時間以上
温かいままだということですが、昔は、ろうそくの上にシャベルをかざし、そこに
パスティーをのせて温めなおしたそうです。また、二種類の中身の入ったパス
ティーもあったそうです。たとえば、片側に普通の肉と野菜、もう片方の側には、
リンゴやミンスミート(干しぶどう・細かく刻んだリンゴ・香料・砂糖を混ぜたも
の)などの甘いものと言った感じです。メインディッシュ・アンド・デザート・
イン・ワン、一粒で二度おいしいグリコのキャラメル顔負けです。中華まんでいっ
たら、あんまんと肉まんが一緒になった感じでしょうか。すごい生活の知恵です。
鉱夫の他にも、かじ屋や技師などみんなのお弁当としてパスティーは親しまれる
ようになりましたが、漁師だけは別だということです。というのは、コーンウォー
ルには、パスティーを持って舟に乗ると悪いことがあるという言い伝えがあるため
です。そこで、漁師たちはパスティーを岸に置いて漁に出るわけですが、戻ってき
た時に誰のパスティーかはっきりわかるように、パスティーの片隅には頭文字が
入っているそうです。これは鉱夫の場合でも同じで、頭文字の入っていないほうの
端から食べると食べ残した場合(甘いほうは3時のおやつにとっておこうとか?)、
誰のパスティーかわかるので便利だったそうです。
コーニッシュ・パスティーは、それだけで完璧な食事 (meal)。そういうわけで、
ポテト・フライ (chips) を付け合わせに皿に盛ったりするのは邪道だそうです。
(その上、グレービーをかけて野菜を添えたりしたら殴られそうですね。)コーン
ウォールが世界に誇る完全無欠のお弁当コーニッシュ・パスティーの巻でした。