Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第27回の目次
● 11月の行事
● ロンドンの話
● 一言イギリス英語講座 - "Don't tell me porkies"
● 英仏戦争

     ● 11月の行事
     
         いよいよ、クリスマスも近づいてきました。今年は、むしろ、西暦2000
       年へのカウントダウンのほうが盛り上がっているようです。

         さて、この欄もそろそろ一回りすることになります。12月の行事といえば、
       もうクリスマスに尽きるでしょう。クリスマスについては、昨年3回に分けて       
       大特集をしていますので、今年は割愛させていただきたいと思います。という
       わけで、毎月の行事の欄も今月で終了させていただきます。長い間、おつきあ
       いいただきまして、どうもありがとうございました。

       Guy Fawkes' Day (11月5日)

         またの名を "Bonfire Night"。1605年11月5日の国会議事堂爆破未遂
       事件 (the Gunpowder Plot) に由来します。この日、ガイ・フォークスらカト
       リック教徒が、国会議事堂に爆弾をしかけました。カトリック教徒を弾圧して
       いたジェームズ一世と大臣たちを亡き者にするためです。ところが、密告者が
       出て、この事件は未然に防がれます。11月5日には、これを祝って、各地で
       花火大会が行われます。この日に先立ち、子供たちは、端切れなどを使って、
       ガイ・フォークス人形を作ります。この人形と一緒に、街頭に立ち、"Penny 
       for the Guy"と道行く人々に小銭をねだります。こうして得たお金で、花火を
       買い、11月5日のガイ・フォークス・デー当日の夜に、ガイ・フォークス人
       形を燃やしながら、その周りで花火をします。公園や野原などでは、これを大
       規模にし、ショーとして演出した花火大会が行われます。

       Lord Mayor's Show (今年は11月13日)

         1215年より続く伝統的な儀式。ロンドンのシティーの市長の乗る金色の
       馬車を中心に、山車や楽団などがシティの中を練り歩きます。行事の由来は、
       1215年に失地王ジョンが、シティーに毎年市長を自分たちで選ぶことを許
       可したことにあります。シティーには広範囲の自由が与えられましたが、この
       条件として、市長選出は王の承認を得、選ばれた市長は王への忠誠を誓うとい
       うことが王によって定められました。この条件を果たすため、市長はシティー
       からウェストミンスターまで王に拝謁するために出かけて行ったのが、ロード・
       メイヤーズ・ショーの始まりです。現在では、ストランドにある王立裁判所の
       判事たちが王の役を代行します。

         詳しい情報は、下記のサイトから。 "The Lord Mayor", "Lord Mayor's
       Show" と順々にクリックしていくと、市長の金色の馬車の写真入りのHPにた
       どり着きます。

       http://www.cityoflondon.gov.uk/history/index.htm

       Remembrance Sunday (今年は11月14日)

         戦没者をしのぶ日。ロンドンでは、ホワイトホールで、軍隊関係者、政治家、
       女王を始めとする王室の人々が列席して追悼式典が執り行われます。この日の
       しばらく前から、街ではポピー(けしの花)の造花を胸につけた人の姿が多く
       見られるようになります。

       St Andrew's Day (11月30日)

         スコットランドの守護聖人でもある聖アンドリューの祝日。8世紀にキリス
       ト教の僧侶により、聖アンドリューの遺骨は、ギリシャからスコットランドに
       運ばれ、スコットランド東海岸にあるセント・アンドリュースの町に埋められ
       たという伝説があります。ここから聖アンドリューがスコットランドの守護聖
       人となったといわれますが、その地元のスコットランドでさえ、この日は特に
       お祝いをするわけでもないようです。(スコットランドの旗を建物に掲げたり
       はするところもあるようですが。)     
          
     

     ● ロンドンの話

         2000年5月のロンドンの市長選挙に向けて、いよいよ出馬戦が盛り上がっ
       てきました。保守党からは、元党副幹事長で作家のジェフリー・アーチャー上       
       院議員が出馬することが決定しましたが、労働党のほうは、元保健省大臣のフ
       ランク・ドブソン議員、元大ロンドン市議会議長のケン・リビングストン議員、
       元女優のグレンダ・ジャクソン議員などが党の公認を獲得するために争う模様
       です。

       ロンドンの定義

         ところで、ロンドンというのは、どの辺りの地域を指すものでしょう?まず、
       上記のロンドン市長選のロンドンですが、これは大ロンドン圏 (Greater London) 
       を指します。これは、City of London、13の内ロンドン区 (inner London 
       boroughs) と19の外ロンドン区 (outer London boroughs) を合わせたもの
       で、ミドルセックス州のほとんどとケント、サリー、ハートフォードシャー、
       エセックス、各州の一部も含まれます。

         City of London は、別名 "The Square Mile"とも呼ばる1マイル四方の旧市
       内を指します。英国中央銀行や証券取引所、各国の金融機関の出先機関などが
       集まり、イギリス経済の中心となっています。ロンドンを歩いていると、やた
       らスーツ姿の人が目立つようになるのがこの辺りです。ここには、市長 (Lord 
       Mayor) がいますが、上記のGLA (Greater London Authority) の市長のよう
       な行政的な権限は持たず、むしろ、イギリスの経済を代表して投資の誘致など
       外交的な役割を果たしていることのほうが多いようです。

         以上が行政的なロンドンの定義ですが、地理的な目安としては、M25と呼
       ばれる環状高速道路の内側を大ロンドン圏とするのが一般的な習慣です。これ
       は、行政区的な意味での大ロンドン圏にほぼ重なります。

       ロンドンのへそ

         さて、ではその大きなロンドンの中心はどこでしょう?車を運転していると
       見かける「ロンドン  何マイル」という標識や、古い一里塚などは、旧チャリ
       ング・クロスを基点としています。(この情報は、自動車協会(AA)のモー
       リス・レイ氏に提供していただきました。)ちょうど、東京で言うと、日本橋
       に当たるのが、チャリング・クロスというわけです。現在のチャリング・クロ       
       スは、同名の鉄道の駅のあるところを指しますが、もともとのチャリング・ク
       ロスは、ストランドとホワイト・ホールの交わる地点を指しました。余談にな
       りますが、このクロスは、エドワード1世の王妃エリノーが1290年にノッ
       ティンガム州で亡くなった後、その葬列がロンドンのウェストミンスター寺院
       まで戻る間、12ヶ所の場所で休憩したことに由来します。この12の場所に
       は十字架が建てられました。チャリング・クロスはこの12の場所の一番最後
       に当たります。現在、チャリング・クロス駅の前にある十字架は1865年に
       建てられた複製だそうです。

         さて、話はロンドンのへそに戻ります。自動車協会(AA)では、しばしば
       イベント会場などへのルート指示もします。よく、道路でみかける黄色い看板
       がそれです。ロンドン周辺でこのような誘導を行う時には、AAでは、ハイド・
       パーク・コーナーをロンドンの中心としているそうです。こちらのほうがずっ
       と現実にあっているからということでした。

       "suburb" と「郊外」の違い

         以前、このコーナーで簡単にふれましたが、イギリス人の感覚では、郊外は
       ずっと都心に近いところを指します。ロンドンの中心から電車で15分から
       20分くらい行くともう郊外ということになります。東京だと、吉祥寺や上石
       神井くらいでしょうか。わたしの住むビーン村は、ロンドンから1時間くらい
       の通勤圏にあります。日本人の感覚では十分、ロンドンの郊外ということにな
       りますが、イギリス人の感覚ではロンドンの郊外ではなく、ケントになるわけ
       です。(行政区的にもこちらが正しいのですが。)つまり、ロンドンの
        "suburb" というのは、あくまでも、ロンドンの一部であるわけです。それに
       対して、日本語の「郊外」は、都市の外を指すようです。(実際、小学館の国
       語辞典には「市街に続くいなか」と書いてあります。)

         イギリス人の郊外の感覚は、ヴィクトリア時代から変わっていないように思
       えます。その典型が、ハムステッドなどの「ニュータウン」でしょう。たぶん、
       これは、"suburb" という言葉が都市の外郭といった、単なる地理的な意味合
       いだけではなく、「中産階級の住む、閑静な住宅街」という概念を含むためで
       はないかとわたしは思います。
       


     ● 一言イギリス英語講座 - "Don't tell me porkies"

         メイン・トピックのロンドン特集にちなんで、ここでもロンドンに関する話       
       題を。

         ロンドンっ子の使う独特のスラング(口語)を "cockney rhyming slang" 
       と言います。コックニーの定義については、セント・メアリ・ル・ボー教会の
       鐘の音の聞こえる範囲内で生まれ育った人たち、などとも言われますが、この
       ライミング・スラングは、北・南を問わず、広くロンドンっ子の間で使われて
       います。ポイントは、肝心の韻を踏んでいる(ライミング)部分のほうが省略
       されて、そうでない部分のほうが使われている点です。つまり、そうすること
       によって、部外者には全然何を言っているのかわからないようにすることがス
       ラングの目的であったわけです。日本の業界用語などと同じですね。では、下
       にいくつかその例を。(一番左が通常使われている言葉。真ん中はもともとの
       形。下線を引いたのが、ライミング部分。一番右がその意味です。さて、一番
       左だけ見て、意味がわかるものがどのくらいありますか?)
       
       porky = pork pie (豚肉パイ) = lie (嘘)
       Septic = septic tank (浄化槽)= Yank (アメリカ人)
       Bubble = bubble and squeak (マッシュ・ポテトに野菜を混ぜて軽く揚げた
       ロンドン特有の食べ物)= Greek (ギリシャ人)
       pen and ink (ペンとインク) = stink (悪臭を放つ)(これはライミング
       部分も省略しないのが普通です。)
       Jack and Jill = till (現金箱、転じて銀行、キャッシュディスペンサー)
       (これも通常省略なし。)
       Barnet = Barnet Fair (バーネットでかつて開かれた有名な縁日) = 
       hair (髪)
       apples = apples and pears (りんごと梨) = stairs (階段)
       plates = plates and meat (皿と肉) = feet (足)
       china = china plate (陶器の皿)= mate (友達)
       dog = dog and bone (犬と骨)= phone (電話)
       Peckham = Peckham Rye (ペッカム・ライ、南ロンドンの地名)= tie 
       (ネクタイ)
                     


     ● 英仏戦争
     
         イギリスとフランスの仲が伝統的に悪いのは歴史の証明するところですが、
       最近火がついたのが、英仏食品戦争です。

         英国産牛肉の輸入禁止がEUによって解かれ、イギリス農業界の悲願が達成
       されました。ところが、このEUの決定に不満なのが、フランス。EUの調査       
       には現在懸念されているいくつかの要因が盛り込まれていなかったとして、依
       然英国産牛肉の輸入を禁止したまま。そこで、怒ったイギリスの畜産農家が、
       ポーツマスの港でフランスからの輸入品を乗せたトラックを足止めするなどの
       抗議行動に出ました。これを後押ししているのが、大手スーパーマーケット
       チェーン。イギリスの農家を応援しようということで、フランス製品の不売運
       動に乗り出しました。そこへもってきて、タイミングよく(?)、フランスの
       畜産農家は、家畜に人間の屎尿の混じった飼料をやっているというレポートが
       発表され、フランス食品離れに拍車がかかろうとしています。

         でも、ちょっと待って。この騒ぎの一部にはどうもスーパーマーケット会社
       のあざとい企みがあるように思えてなりません。もし、本当にイギリスの農家
       を助けるつもりがあるのなら、フランス製品をボイコットするより、仕入れ値
       の暴落した羊肉などの利ざやを消費者に還元して、食肉の消費を促すことのほ
       うが、ずっと農家の手助けになるのでは?このところ、儲けすぎと評判の悪
       かったスーパーマーケットですが、ここへ来て、フランス製品のボイコットな
       どという姑息な手段で、あわよくば、人気回復、少なくとも、消費者の非難の
       矛先を変えられることを狙っているのではないのでしょうか?
     


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