Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第9回の目次

● 1月の行事
● イギリス「衣」事情
● 一言イギリス英語講座 - "hooligan"
● おからだに気をつけて

     ● 1月の行事

すでに1月も残すところわずかとなりました。今年は冒頭のこの欄では、できる だけその月の伝統行事をご紹介していきたいと思っています。日本ではあまり知ら れていないイギリスの伝統行事はまだまだあります。

その一つが、1月25日のバーンズ・ナイト (Burns Night)です。これはイギリ スに住む人でも、知らない人が結構いるかもしれません。スコットランドを代表す る18世紀の詩人、ロバート・バーンズの誕生日を祝うお祭りです。ロバート・ バーンズは、日本でも親しまれている「蛍の光」 (Auld Lang Syne) (日本語の歌 詞はバーンズの詩とは意味が違いますが、どちらも年の瀬に行く年を惜しんで歌わ れるのは奇遇ですね。)など、スコットランド民謡に詩をつけたことによっても知 られています。

地元スコットランドではどのように祝われているのか知りませんが、数年前に、 南ロンドンのレストランで食事をしたら、バーンズ・ナイトの特別イベントをやっ ていたことがあります。(それとは知らずにたまたま1月25日の夜に予約をした のですが。)スコットランドの正装をした男性(ブレザーにネクタイ、キルトと呼 ばれるタータンチェックのスカートをはき、房飾りのついたハイソックスを身につ けて)がバグパイプを演奏しながら登場しました。その後に、バグバイプの音楽に のって、うやうやしくハギスを捧げ持ったシェフが入場。皿をテーブルに置くと、 たいへんもったいぶった手つきで、ナイフを入れました。そして、長髪の若い男性 (俳優志願か?)が現れて、スコットランド訛りでロバート・バーンズの「ハギス に捧げる詩」 (Address to Haggis) を朗読。この日は、バーンズナイト特別メ ニューがありました。やっぱりメインはハギスです。ハギスというのは、羊の臓物 をオートミールや調味料と混ぜて煮、その胃袋に詰めたものです。見た感じは大き なソーセージといったところ。この描写からはあまり食欲をそそわれないでしょう けど。肉屋やスーパーマーケットで売っていますので、それを茹でていただきま す。味については、好き好きでしょうが、日本のおせち料理のようなもの、と言っ ておきましょう。そのココロは、伝統ものなのでいただくが、一年に一度以上食べ る気にはあまりならない・・・。(でも、最近は日本のおせち料理がとてもおいし いと感じるようになってきました。やっぱり、年のせい?)

     ● イギリス「衣」事情  

この "Anglo-bites" の謳い文句は、「イギリスの衣食住習慣のご紹介」というこ となのですが(ご存知でした?)、今まで「衣」のほうについては全然触れないで きました。(圧倒的に「食」が多かったかな?)別に避けてきたわけではありま せん。単にわたしが「衣」には興味がないだけです。だからこそイギリスはわたし にとって住みやすいのですが。

"Anglo-bites" を第一回から掲載していただいている "El Puente" というサイト に、現在アメリカのコロラド州に留学中のRieさんのエッセイを載せた "Pan- americanismo" というコラムがあります。ここで、Rieさんは、コロラドの学生の着 るものにだまされるな。彼らは実際の温度が何度でも、日さえ照っていれば、半袖 Tシャツに短パンで町を歩き、時には上半身裸でビーチバレーなどやっている、と 書いています。これはイギリスでもまったく同じ。さすがに、コロラドとちがって 零下まで気温が下がることはめったにないので、これほどのつわものはいません。 それでも、ちょっと暖かいといきなり夏に戻ってしまうおっちょこちょいはそこら じゅうにいます。そうかと思うと、夏でも毛糸の帽子をかぶり、オーバーを着て厚 手のタイツをはき、犬を散歩させている老婦人もいます。要するに季節感がないの ですね。自分が寒いと思えば暖かい格好をし、自分が今日は暖かいと思い込めば、 半袖Tシャツに短パンで出かけるわけです。

日本では、季節を先取りするのが粋というファッション観が伝統的にあると思い ます。今のように衣服にバラエティーがない時代でも、昔の人たちは、生地の素材 や色柄によって季節感を出していたようです。そして、春の終わりくらいに、夏物 素材の着物を着るのが粋だと思われていました。みなさんもある小春日和に、半袖 を着ると温度的にはちょうどよいが、ちょっと着られない、と思ったことがありま せんか?これは、季節を逆戻りすることは「ださい」というおしゃれ観が日本人に はあるからではないかと思います。(その次の夏を先取りしている、という逆転の 発想もできますが。)

それからもちろん、日本の四季はイギリスと比べて、かなりはっきりしていると いうこともあります。また、収納場所が限られているので、過ぎた季節の洋服は さっさと箱に入れてしまう必要もあります。衣がえという習慣は西洋人には奇異で 非合理的にうつりますが、日本の住宅事情を反映した、やむをえない習慣だとわた しは思います。

では、日本人がその日に着るものを決める基準が季節感だとしたら、イギリス人 の基準は何か?それは「思い込み」です。たとえ真冬の1月でも、日がさんさんと 照っていれば、それは夏と同じ事である。と決め込んでTシャツで外に出るわけで す。また、(自分の)ホリデーは暖かくなければならない、という信念のイギリス 人は、雨が降って肌寒い時でも、南フランスでは必ずTシャツに短パンをはいて歩 きます。「心頭を滅却すれば、火もまた涼し」と言ったのは日本の偉いお坊さんで すが、イギリス人もそれに劣らず、実は精神論的な人種なのかもしれません。しか し、体の方は必ずしも精神にはついていけないものです。真冬に例外的に暖かい日 があると、その次の日も半袖Tシャツででかけて、風邪をひくという大馬鹿者も少 なくありません。前述のRieさんは、天気予報を参考にしましょうとアドバイスし ています。イギリスを訪れる日本人の方へのわたしのアドバイスは、「必ず温度調 節のできるかっこうをして出かけましょう。」ということです。Tシャツの上に セーターやジャケット、夏でも必ずジャケットは忘れないように。昼間のうちは暑 くても、日が沈むと温度が急に下がることがしばしばです。イギリスの天気は、気 まぐれです。どうぞくれぐれもご用心を。

     ● 一言イギリス英語講座 - "hooligan"

この言葉は、昨年のサッカーのW杯のおかげで、日本でもすっかり有名になりま した。ご存知の通り、意味は破壊行為にはしる暴力的な若者、古い日本語では与太 者です。この言葉は1890年代までには使われていたようです。語源について は、大きく分けて二つの説があります。アイルランド人の名前がもとになったとい う説と、19世紀終わり頃に北ロンドンに実在したと思われる "Hooley's Gang" (フーリー一味)がもとになったという説です。類義語には、lager lout, yob/ yobbo などがあります。( hooligan は、特にサッカーと関連付けられる場合に は、"football hooligan" と呼ばれます。中でも、サッカーは酒の肴で、暴力沙汰 をおこすこと自体に関心がある悪質な連中を、 "hard-core hooligan" と呼びま す。また、過激なサッカーファンの代名詞として、Mill Wall supporters という言 葉がしばしば使われます。 Mill Wall は南ロンドンを本拠地とするサッカーチーム で、そのファンは数々の場内・外乱闘で知られています。)サッカー場での死傷事 件は、20世紀の初め頃から記録に残っています。また、残念なことにこれらの暴 力行為は、単に一部の与太者のしわざというよりは、若者文化となっています。" hooliganism","lager culture", "yob culture" といった言葉がそれが如実に表わ しています。 ところで、イングランドファンの悪名は、一部のフーリガンのおかげで世界中に ひろまりましたが、スコットランドチームのファンは、ホスト国フランスでもずい ぶんと評判がよかったようです。スコットランド人は酒を飲むと、陽気で楽しくな るから(イングランドファンが暴れるのに対して)というのが、愛される理由だと いうことです。しかし、イングランドファンの夫いわく、「スコットランドチーム は弱いので、他の国の脅威にもならないから。」ですって。やっかみ半分のような 気もしますが。 さて、2002年の日本・韓国共催のワールド杯にフーリガンはやってくるか? わたしは、現在の状況がそのまま続いていれば、フーリガン日本上陸はないと見ま す。つまり、日本への往復航空運賃が500ポンド(現在のレートで10万円弱) で、平均的なホテルの宿泊費が、一人一泊30ポンドという前提が3年後も変わっ ていなければ、ということです。フーリガンたちはそれほど高給をとれるような職 業にはついていないので、これほどの出費をしてまで暴力沙汰をおこしにはるばる 日本までやって来るとは思えません。ただし、旅行会社が「W杯スペシャル・日本 パッケージツアー一人200ポンド」なんて企画を打ち出したら、その保証はあり ません。その時には、会場近くの飲食店や酒屋で、ビールの値段を思い切りつりあ げてもらいましょう。スウェーデンでのイングランドの試合では、ほとんど問題が おこりません。というのは、スウェーデンの酒税は高いので、アルコールの値段も たいへん高く、大量に飲むことができないです。やっぱりフーリガンも酒の勢い無 くしては、暴れられないようです。

● おからだに気をつけて

この一月は、イギリス各地でたいへんな強風にみまわれたところが多かったよう です。おまけに雨まで混じるともうたいへん。傘が何本あっても足りません。もと もとちょっとくらいの雨ではイギリス人は傘をさしませんが、こう風が強いと必死 の思いで傘をさして歩くよりは濡れたほうがまし、とわたしですら思います。

日本でもインフルエンザが流行しているようですが、みなさま、おからだに気を つけて下さい。

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