Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第10回の目次

● 2月の行事
● イギリスの住宅事情
● 一言イギリス英語講座 - "air rage"
● (またもや大胆にも…)次回予告

     ● 2月の行事

まず、2月の行事といえば、2月14日のバレンタインデー (St Valentine's Day)でしょう。この日は、もともとは古代ローマの若者の祭りの前日に当たり、 若い人たちが、くじ引きでそれぞれの恋人を選びました。この恋人のことを意味し た中世の英語、valentine (その語源は古代ローマ語)が現代の valentine のも とになっています。。現代では、valentine というと、バレンタイン・カードやそ のカードを送られた人を意味します。2月14日に殉教した聖バレンタインは、恋 人たちの守護聖人とみなされていますが、この日に意中の相手にカードやプレゼン トを贈るという習慣とは直接関係ないということです。

さて、現代のイギリスのバレンタインデーですが、チョコレート屋が一人大もう けをする日本とは違って、さまざまな商売が繁盛するのがイギリスのバレンタイン デーのいいところです。また、日本のようにこの日は女性から男性へとは限られ ず、双方でプレゼントが交換されます。この日を特にてぐすね引いて待っているの が、カード屋、花屋、新聞社(特にタウン紙)ではないでしょうか。バレンタイン のカードを送る習わしは、ヴィクトリア時代に始まりました。最近では、本命だけ ではなく、誰からもカードをもらえなかった兄弟姉妹にジョークのバレンタイン カードを送る人が増えてきているそうです。(義理カードって言うんでしょうか ね。)これを当て込んだカード屋では、バレンタインカード2枚お買い上げにつき 1枚おまけというキャンペーンをやっているところがあります。この日には、オ フィスビルの受付は大忙し。花屋の配達の取り次ぎに大童です。女子トイレの洗面 台には午後5時の終業を待つ花束がいっぱいに入れられ、手を洗う場所もなく、 まったく迷惑この上なし。(これってひがみ?)新聞には、男性から女性、女性か ら男性へのメッセージがたくさん載ります。ここで、ポイントは、カードも花束も 新聞広告も、送り主の名前を明かさない、ということです。"secret admirer"(匿 名の崇拝者)ということで、誰からかしらと思わせるのがいいところです。ほとん どの場合は交際中の男女や夫婦ですので、相手はわかっていますが。この場合にも、 本名は書かずに、ペットネーム(愛称)などを使います。思い切りロマンチックな ところでは、相手に内緒で週末のパリ旅行に連れ出すというのが、よく新聞などに 載っています。しかし、これはかなり周到な計画と細かい配慮が要されるのではな いでしょうか。どのくらいの人が、実行に移して、しかも成功したのか興味のある ところです。

さて、もう一つの2月の行事は、今年は2月16日にあたる Pancake Day です。 正式名称は、 Shrove Tuesday (ざんげ火曜日)です。キリスト教の四旬節 (Lent) の初日、Ash Wednesday (聖灰水曜日)の前日にあたります。この Ash Wednesday から、Easter (復活祭)までの日曜を除く40日間は、キリストが 40日間荒野で断食をしたのにならい、敬謙なキリスト教徒は、ざんげをしたり断 食をしたりします。その40日間の断食に備え、前日の Shrove Tuesday には、長 持ちしない食べ物を全部料理して、ご馳走を食べる習慣がありました。当時の大半 を占める貧しい家では、手軽に材料が手に入り、もっとも腹にたまるパンケーキが 食されたわけです。現代では、実際に断食をする人はほとんどいないでしょうか、 パンケーキを食べる習慣だけは残っています。イギリスでいうパンケーキとは、日 本でいうホットケーキとは違い、フランスのクレープを想像していただくと間違い ありません。小麦粉・牛乳・卵・砂糖で作り、薄くフライパンにのばして焼いてグ ラニュー糖とレモン汁をかけていただくのが、伝統的な食べ方です。この日には、 パンケーキを落とさないよう、ひっくり返しながら、フライパンを持ってゴールに 向かって走るパンケーキ・レースなど、パンケーキにちなんだ、いろいろな催し物 が各地で開かれます。

     
     ● イギリスの住宅事情

さて、前回は「衣」の話でしたので、今回は「住」に話を移したいと思います。

「イギリス人の家は城」(An Englishman's home is his castle.)と言いますが、 イギリス人男性の家にかける情熱は、他のヨーロッパの男性とはくらべものになり ません。しばらく前に新聞で読んだ話ですが、イギリスの男性雑誌の売れ行きは、 他のヨーロッパ諸国に比べて、かなり劣るのだそうです。その理由は、イギリス男 性は、若いうちから住宅ローンを組み、その支払いにきゅうきゅうとしていて、お しゃれに費すことのできる可処分所得が低いのだそうです。それと比較して、イタ リアやフランスの男性は「住」をそれほど重視しないぶん、おしゃれのほうにお金 をかけるので、おしゃれ特集を組む男性雑誌にも関心が高いということです。

実際、ヨーロッパ大陸の国々では、持ち家より賃貸のほうが多いようです。イギ リスで持ち家比率が一気に上がったのは、80年代のサッチャー首相の持ち家奨励 政策以来だと思いますが、イギリス人の住宅にかける情熱というのは、他のヨー ロッパ人以上だと思われます。賃貸住宅でも、許される限り、自分の好きなように 住まいに手を加えます。最近では、女性の間でもDIY(日曜大工)をする人が増 えてきているそうです。

売買される家のほとんどは、中古住宅です。一つの家が、100年も200年も もってしまうことを考えれば、それもうなずけるでしょう。新築住宅のほとんど は、建て売りです。ということは、土地を買って、そこに自分の好きなスタイルの 家を建てる、というケースはあまりないということです。この理由としては、資金 調達の難しさが挙げられるのではないでしょうか。つまり、イギリスでは家を買う 場合、モーゲージ (mortgage) と呼ばれる住宅ローンを銀行、または Building Society という相互会社形態の住宅ローン会社(預貯金などの銀行業務も行います が)から借り入れます。(頭金なしの100%モーゲージも可能なので、20代の 若いカップルでも簡単に家を買うことができます。)この場合、モーゲージという 名の通り、これから買おうとする家を抵当に入れて、買うための資金を調達するわ けです。ところが、更地に家を建てる場合、抵当に入れるべき建物がないので、こ の方法ではちょっと難しいのです。しかし、全く、無理なわけではありません。土 地を自分の資金で買い、(土地が住宅の価値の大半を占める日本とは違うので、こ れは日本ほど困難ではないようです。)その土地を担保に入れて、これから建てる 家の一部の資金を借り、その一部が建ったところで、今度はそれを抵当に入れて、 次の段階の建設資金を調達する、という具合です。しかし、やはりこの方法はあま りにも手間がかかるので、実行する人は少ないようです。

このへんの事情が、イギリスの「街並みの美」の理由の一つではないでしょう か?つまり、新築の家はほとんどデベロッパーによって建売用に一括設計・建築さ れ、一度家が建つと、煉瓦作りですから、何十年、何百年ともちます。そういうわ けで、自然に、地域全体に統一された住宅が建ち並ぶわけです。日本のように、築 35年くらいで、建てかえるということになると、どうしても建てかえる時には、 持ち主の好きなスタイルに、となるのが人情ではないでしょうか。それで、日本に は瓦屋根の堂々とした純日本風のお屋敷の隣りに、紫の洋館が建っていたりするす るわけです。 もっとも、都市計画面での規制がイギリスでは厳しいのも事実です。ある通りで 家の外壁をピンクに塗り、ピンクの車を前庭に駐車していた女性が区役所から注意 を受けたという記事が新聞にありました。歴史的な建物(歴史的に価値のある建物 は登録され、持ち主が勝手に改造できないよう法律で保護されています。)ならと もかく、普通の住宅地の近代住宅について、そこまで規制しなければならない必要 はないのではないかとわたしは思います。(ピンクの家が悪趣味だというのには賛 成しますが。)Listed buildings (上記のような歴史的建物)でしたら、そこに 住む人たちには、セントラルヒーティングがなくてもなんでも、不便には耐えてい ただいて、絶対に建物に手を加えてほしくはないと思います。その歴史的価値に惹 かれて、数ある家の中からその家を選んだのですから。

     
     ● 一言イギリス英語講座 - "air rage"

前回の "hooligan" に続き、またまた現代イギリス社会の暴力的、攻撃的な面を 披露するようでちょっと心苦しいのですが、ホットな言葉が冷めないうちに料理し たいと思います。

1月末に、ジャマイカに向けて出発した、パッケージツアー会社のチャーターし た飛行機の中で、酔った乗客による暴力事件が発生し、アメリカに緊急着陸を余儀 なくされ、問題を起こした家族12人がそこで降ろされた、という事件がありまし た。わたしが知る限りでは、この事件から "air rage" という言葉が使われ始めた ようです。もっとも、この種の事件は今回が初めてではありません。その前にも、 酔った乗客が瓶でスチュワーデスに殴りかかり、頭や腕などに十数針もする傷を負 わせたことがありました。

"air rage" とは、別名 "airbourne hooliganism" といい、飛行機の中で暴力的 になること、及び飛行機内での暴力事件を指します。この言葉は、すでに1995 年から1996年にかけてイギリスで広く使われるようになった "road rage" か ら派生しました。(この言葉は、運転に絡む殺人事件が1984年にロサンゼルス で発生した時に、ロサンゼルス・タイムズの記者によって作られたということで す。)"road rage" は、もともとは「運転中のストレスに起因する暴力的な怒り、 あるいは普通のドライバーが他のドライバーの運転行為により、暴力的な性格に豹 変する現象」を表します。ですから、このような怒りに引き金を引かれた暴力行為 そのものについては、"road-rage attacks" というように普通名詞を添えて表現し ます。しかし、最近では、"road rage" は、暴力行為・事件そのものを表す普通名 詞として使われており、"road rages" という複数形も見かけられるようになりま した。動詞は "commit" を使って、"commit road rage" というような言い方をす るようです。

"road rage" の原因は、明らかに、運転に伴うストレスや、ハンドルを持つと性 格が変わる、とよく言われるように、車の運転独特の状況が原因となっています。 これに対して、"air rage" の原因は飲酒と思われます。航空会社は、酒を飲んだ 人全員が暴力沙汰を起こすわけではないのだから、酒は原因ではない、と主張しま すが、しらふで暴れる人もいないのですから、酒は明らかに要因の一つであるに違 いありません。航空会社は、機内でのアルコール販売を禁止されたくないので、こ のように主張しているにすぎないのです。(特に、パッケージツアー会社のチャー ター便の場合、航空運賃が安く抑えられている代わりに、酒類の機内販売で利益を 確保しようとしているような面があります。)もっとも、機内でアルコール販売を 禁止しても、必ず酒を機内に持ち込む乗客はいるでしょう。要するに、問題はフー リガニズムといい、酒を飲んで暴れることに対して、イギリス社会が寛容すぎると いうことではないかと思います。

     
     ● (またもや大胆にも…)次回予告

さて、今回は「2月の行事」が長くなりましたので、メイントピックを短く抑え ました。次回は、今回ご紹介のできなかった、イギリスの住宅の種類について書き たいと思います。題して「イギリスの不動産広告を読む」です。これだけ知れば、 あなたも不動産広告がわかる、というかなり実用的な企画です。

髄膜炎 (meningitis) という言葉を聞いたことがありますか?日本ではあまり耳 なじみのない病気ではないかと思います。細菌あるいはウィルスによる伝染性の病 気で、一見インフルエンザの症状に似ていますが、発病から短期間で死に至ること の多い、恐ろしい病気です。現在南ウェールズを中心に患者が発生していて、住民 を震撼させています。例年は、クリスマス前後に若い人々の間で死者が出ますが (パーティー時期に、キスによって感染するというのが通説でしたが)、今回はお 年寄りの犠牲者も出ているようです。また、亡くなった人たちの間に直接のつなが りがない、など疑問な部分が多く、それだけに近隣住民だけでなく、多くの人を恐 れさせています。

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