● イギリスのテレビ事情
2月からスタートした新コーナー、「TV Watch」がおかげさまでご好評をいただ
いています。それと同時に、イギリスのテレビ局についてのご質問をいただきまし
たので、ここで少しイギリスのテレビ放送についてご紹介したいと思います。
まず、イギリスのテレビ放送には、アナログ放送では、地上波 (terrestrial)、
衛星 (satellite) 及びケーブル放送があります。そして、これに加えて、デジタ
ル放送が昨年から始まりました。アナログの地上波放送チャンネル、つまり普通の
チャンネルは、全部で5つあります。日本から比べるとあまりの少なさに驚かれる
かもしれません。BBC1, BBC2, ITV, Channel 4, Channel 5 の5チャンネルです。
BBC1及びBBC2は、視聴者の支払う "TV Licence"(日本のNHK受信料
のようなもの)が財源となっています。このため、株主やスポンサーなどの意向に
とらわれることなく、独立した立場で報道や番組作成ができる、というのがBBC
の主張です。それでも、日本のNHKほど中立の立場にはこだわっていないように
思います。(かつて、紅白歌合戦で山口百恵の「プレイバック2」の歌詞を「真っ
赤なポルシェ」から「真っ赤な車」に変えさせたのを覚えていらっしゃる方も多い
のではないでしょうか。)BBC1とBBC2の違いについてBBCの公式見解を
聞いたことはありませんが、NHK総合とNHK教育テレビの関係のようなものと
考えていただくとわかりやすいように思います。BBC1のほうはわりと一般うけ
をしそうな、視聴率を意識した番組が並んでいるのに比べて、BBC2ではもう少
し地味めで通好みの番組が放映されています。BBCが大金を注ぎ込み、好評を博
している時代物 (period dramas とか costume dramas とか呼ばれます。代表的な
ものは、ジェーン・オースティンブームの引き金となった「自負と偏見」など。)
は、BBC1で放映されます。BBC2で、放送大学 (Open University) が週末
の朝に、"BBC Learning Zone" という教育番組が毎日深夜から早朝にかけて放映さ
れているのは、教育テレビと似ていますよね。が、かなりくだけたコメディー番組
もBBC2では見られます。
ITV、チャンネル4、チャンネル5は民放局です。ITVは政府よりライセン
スを与えられた15社の連合で、14の地域でそれぞれの局が放送することにより、
全国をカバーしています。(ですから、地域によって若干番組編成に違いがありま
す。また、ロンドンでの放送権は2社に与えられており、1社 (Carlton) が週日
の放送、もう一社 (London Weekend Television) が週末の放送を受け持っていま
す。)このライセンスは定期的に見直しがされます。チャンネル4は、法律によっ
て、ITVのカバーしないような分野についての放送をするように定められていま
す。そのせいでしょうか、かなりマイナーでちょっと変わった番組が多く、見解も
わりと自由・革新的です。(それに結構きわどい番組も多いという評判です。)
チャンネル5は昨年から放送が始まりましたが、受信できなかったり、映りがよく
なかったりする地域も少なくなく、評判はいまいちのようです。(それにおもしろ
そうな番組があまりないし、映画もB級ばかり、というのがわたしの個人的な意
見。関係者の方、読んでいらっしゃったらごめんなさい。)
イギリス人のテレビ視聴習慣において、たいへん顕著な点はとにかく保守的であ
るということです。"TV Watch" をお読みになった方ならお気づきかもしれません
が、長寿番組の多さにおいては全世界でも5本の指に入るのではないでしょうか?
3月5日の放送を最後に、ITVの10時のニュース ("News at Ten") がその32
年の歴史に幕を閉じました。9時からの映画を中断なしで一気に放送するためで
す。(9時には "watershed" と呼ばれる、性描写や暴力シーン、乱暴な言葉など
の放映を規制する境界線があるため、多くの人気映画は9時から放映されます。)
2時間物の映画の間に30分のニュースが入るという不都合に、今まで視聴者が耐
えてきたのが不思議なくらいですが、実はこのニュースの終了を惜しむ声も大きい
のです。そんなに名残り惜しいなら、新しい6時半のニュースを "News at Ten"
と名づければ?などというジョークもありますが、冗談だけでもないようです。そ
のくらい長年なじんだものに対するイギリス人の愛着というのは強いものです。好
きなものは毎日食べても飽きない、というイギリス人の保守的な性格がテレビ番組
にも表われているように思います。
この傾向のもう一つの表われ方が、再放送の多さでしょう。BBCのホームペー
ジの質問コーナーにも、なぜ再放送が多いのか?という質問が寄せられています。
それに対してBBCは、再放送の数は以前よりずっと減っている。(そりゃ、以前
はひどいものでした。)再放送をすることによって、好評だった番組をもう一度見
るチャンスを視聴者に提供できるし、中にはそれが初めて見る機会となる人たちも
いる、ということでした。再放送を希望する人が多いのも事実です。実際、衛星放
送チャンネルの中には、UK Gold, UK Horizons, Granada Plus など再放送だけを
放映するテレビ局も少なくありません。そして、意外にこういうテレビ局の視聴率
が決して悪くないのです。
イギリスのテレビ番組の編成パターンで気がつくことは、夏は再放送が多く、い
い番組は冬に集中する、ということです。(上にも書きましたが、かつて夏はBB
Cの放映番組の半分くらいが再放送で、こんなに再放送が多いなら、TVライセン
スの料金を半額にすべきだ、という議論もあったくらいです。)これはイギリスの
天気と大きな関わりがあるとわたしは思います。夏の間は、日も長く、天気も(他
の季節から比べれば)まあまあよいので、パブの庭で飲んだり、いろいろな催しが
あったり、屋外ですごす社交機会が多くなります。そこで、いい番組を流しても、
家でソファーに座ってじっくり見る人は少ないので、もったいないということにな
ります。もう一つの理由は、これもまた天気がらみで、天気のよい夏はもっぱら屋
外ロケーションに費やされるからです。特にガーデニング番組は、夏の間にほとん
どの部分の撮影が行われ、冬に編集されたものが放映されます。そして、初夏にな
ると、"Enjoy your garden!" といって、シリーズ終了となります。
皆様すでにおっ察しのことと思いますが、テレビについては一家言あるわたしで
す。(でもそんなに見ているわけではないですよー。)このテーマについてはまだ
まだ語り足りないので、またの機会にこのコーナーで取り上げたいと思います。
個々のお勧めテレビ番組につきましては、引き続き "TV Watch" で取り上げていき
ますので、そちらもご覧下さいね。