Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第13回の目次

● 4月の行事
● イースターの起源
● イースターにつきものなのは・・・
● イースターの行事
● イースターの言い伝え
● イースターの食べ物
● 一言イギリス英語講座 - "GM food"
● 次回予告はないのだった

     ● 4月の行事

Easter (4月2日 〜 4月5日)

今回はこの欄を拡張して、イギリスのイースターの習慣あれこれをたっぷりご紹 介していきます。詳しくは下の欄をご覧ください。

St. George's Day (4月23日)

イングランドの守護聖人聖ジョージの祝日。といっても、現在ではあまり大々的 なお祭りは催されません。気がつかずにその日をすごしてしまう人も多いと思いま す。この日の伝統的なシンボルはバラの花と St. George's cross (ユニオン ジャックの中に含まれる、白地に赤の十字)。聖ジョージは、キリスト教の殉教者 ですが、キリスト教伝道者としてよりは、むしろ竜 (dragon) 退治をした勇敢な騎 士として知られています。聖ジョージは東小アジアに生まれ、西暦303年頃にパ レスチナで亡くなりました。竜退治の伝説は、12世紀頃、十字軍遠征が行われて いた時に生まれたといわれます。リチャード1世が兵士たちの守護聖人としたこと から、後に(14世紀)イングランドの守護聖人となったようです。では、なぜ4 月23日が聖ジョージの祭日か?今回調べたところでは確認できませんでしたが、 たぶんその日が聖ジョージの殉教した日なのではないかと思います。聖バレンタ イン・聖パトリック・聖デイビッド、これらすべての祭日はみな、その聖人が殉教 した日ですから。

     ● イースターの起源

イースターの起源

"Easter" という名前は、"Eastre" (または "Eostre" )という北方神話の、春 と豊穣の女神に捧げた土着宗教のお祭りに由来すると言われます。暗く長い冬が終 わり、木々が芽をふき、花が開き始める春は「再生・再誕」の時であったわけで す。このお祭りがのちにキリスト教の広がりとともに、キリストの処刑を思いおこ し、その復活を祝う、キリスト教の復活祭のお祭りにとって替わられました。とい うわけで、このイースターもクリスマス同様、土着信仰とキリスト教との不思議な 混合なのです。

イースターの休日

イギリスではイースターの時期は4連休となります。金曜日の Good Friday に始 まり、土曜日の Easter Eve または Holy Saturday(この二つの名称はあまり聞き ませんが)、日曜日の Easter Day または Easter Sunday 、月曜日の Easter Monday で終わります。金曜日と月曜日はバンク・ホリデーです。

Good Friday

キリストが磔になり死んだとされる日。かつては、3月25日がキリストが十字 架に架けられた日とされており、今でも一部のキリスト教徒は3月25日をキリス ト受難の日としているようです。イギリスでは、3月21日以後の満月の次の日曜 日を Easter Day として祝い、その直前の金曜日を Good Friday とします。この 場合の "good" は「神聖な、聖なる」を意味します。この日は、今でも多くの人に 不吉な日として忌まれているそうです。(わたしの周りのあまり敬謙でないキリス ト教信者たちは4連休の最初の日としてお祝いしていますが。)

Easter Day (Easter Sunday)

キリストが復活したと信じられている日。

Easter Monday

Easter Sunday の翌日。(振替休日っていうのに、もっともらしい名前をつけた だけのものなんでしょうか?)この日には各地でいろいろなイースターのゲームが 行われるそうです。

     ● イースターにつきものなのは・・・

イースターには、すべての神の子供の結束を記念して(というのが本当の意味ら しいですが)、家族や友人の間で卵が交換されます。そもそも、卵の交換はサク ソン民族の信仰から来ているということです。新しい太陽の誕生(=春)のシンボ ルである卵を赤や金に塗って交換し、イースター・デーに太陽が昇るのを記念しま した。今でも、卵を色とりどりに塗って飾る習慣は広く行われています。この習慣 はすでにエドワード1世 (1239-1307)の頃にはあったようです。飾り用の卵の場合 には、生卵の両端に穴を開けて中身を吹き出してから色をつけます。(ちょっとこ れは気持ちの悪い作業ですが。)下に述べるように、イースター・サンデーの朝食 に食べる場合には、固ゆでにして食用の天然染料で色をつけます。

うさぎ

イースターとは切っても切れない関係にある動物。ノウサギ (hare) は イース ターの語源になった春あるいは曙の女神のお気に入りの動物だったことから、イー スターと結び付けられたようです。しかし、現代ではノウサギよりはウサギ (rabbit) のほうが、"the Easter bunnies" など、イースターと深い関わりを持 つようになっています。

     ● イースターの行事

わたしの住むケントではイースター特有の行事というのはないようです。した がって、ここから先に書く行事についてはわたしは実際に見たことも聞いたことも ありません。純粋に資料のみに基づく情報ですので、わたしはランカシャーに住ん でいる(あるいはいた)がそんなことは聞いたこともない、とおっしゃる方がい らっしゃったら、ぜひご連絡下さい。ちなみに、ロンドン生まれの夫も聞いたこと がないそうです。

Pace-egging

"Pace" は古い英語でイースターを意味する "pasch" から来ているそうです。 (ラテン語の "Pacha" に由来するという説もあります。意味は同じで、イースター を表します。)"Pace-egging" というのは、イングランド北西部、ランカシャー州 に伝わる古い習慣で、一時は他の地方でも広く行われていたそうです。これは一種 の仮装行列のようなものみたいです。派手なリボン、動物の皮、紙の飾りなどをつ けた男性のグループが街を練り歩き、手に持った籠の中に見物人から卵を投げ入れ てもらいます。(代わりにお金でもいいそうです。)この卵は玉ねぎの皮に包んで 茹でました。そうすると、金色のまだら模様が表面につくそうです。この卵は、 Easter Sunday の朝食に食べました。伝統の歌を歌いながら行列は進み、時々立ち 止まっては劇やダンスなどを披露しました。ご褒美には卵の他に、パブの外では ビールが振る舞われたりしたそうです。この行列には参加者が後にくっつき、最後 にはかなり長い列になります。また、行列はいくつかのグループによって行われ、 ライバルグループ同士が会うとちょっとした友好的な小競り合いがあったそうです。 木でできた剣で戯れに突っつきあったり、相手から卵を盗もうとしたり、冗談を 言ったりといったやりとりが行われます。

これらの習慣は今でも一部の地域で受け継がれているということです。

Egg-rolling

丘の斜面で卵を転がす競争です。今でもプレストン(Preston ランカシャー州) ではこの行事が Easter Monday に行われているそうです。もっともなことながら、 卵は普通固ゆでにしておきます。今日ではあまり色を塗ったり飾りつけはしないそ うですが。割れずに一番遠くまで転がった人の勝ち。かつては負けた人は卵を奪わ れ、食べられてしまったそうですが、現代では取った卵を食べる子供はいないよう です。イースターエッグの殻は必ずつぶしましょう。ランカシャーの魔女のお気に 入りだそうです。これで舟をつくるのですって。

     ● イースターの言い伝え

Good Friday にはいろいろな言い伝えがあるようです。まず、キリストが十字架 を背負ってゴルゴダの丘に向かったことから、この日はくぎや鉄の道具などを使う べきではない、という言い伝えがあります。そこから、鉄(鋤、鍬など)を土に入 れることが忌まれるようになり、この日には農作物を植えないほうがいいと言われ るようになりました。一般的に、この日は不吉な日とされ、昔は鉱夫は仕事を休み ました。今でも、漁師は漁には出ないということです。

掃き掃除

Good Friday に(または元旦に)箒を使って家や庭を掃除をすると運が悪いとい う言い伝えがあるそうです。(これも資料で読んだことです。夫に聞いてみたとこ ろ、彼は聞いたことがないそうですが。)掃き出すことが運を掃き出すことに通じ るため、よくないらしく、部屋の角から中央に向かって掃き、そこでごみをまとめ て拾い上げて捨てるのはOKだそうです。

幼い頃、「お正月に箒を使うと、お正月の神様を追い出すことになる。」と母に 言われ、三が日は我が家では掃き掃除はありませんでした。母以外の人からこんな ことを聞いたことはありません。他にこんな言い伝えを聞いたことのある方、い らっしゃいますか?これが、三が日は楽をしようという、いわゆる「ハハノオシ エ」(大人の嘘)なのか(「まぐまぐウィークリー」読者のみなさんならご存知で すね。)、それとも長野県小諸市(ここが彼女の出身地です。)だけに伝わる迷信 なのかは謎です。それにしても、「ハハノオシエ」がイギリスの言い伝えと同じ だったというのは、興味深い発見でした。

     ● イースターの食べ物

やっぱり、食べ物抜きではイギリスの年中行事は語れません。

ホット・クロス・バンズ (Hot Cross Buns)

Hot cross buns レーズンやオレンジ・レモンの皮の入ったパン。 軽くトーストしてバターをつけていただきます。 ちょっと甘いパンなので、お茶と一緒におやつと して食べるのが普通です。また、伝統から言って も、かつてはケーキとして食べられていたので、 これが正統な食べ方かも。

パンの上に十字 (cross) が入っていることから、 キリストの受難を記念するこの時期に食べられま す。(たまに季節外れの頃にスーパーで売られて いることもありますが。おいしいので、一年中食 べられればいいのにと思う消費者はわたしだけではないということのようです。) しかし、このパンはキリスト教の復活祭が伝来する前からあったそうです。その頃 は、ケーキとして作られ、土着宗教の春のお祭りに使われました。

Good Friday に焼いたパンには、ある種の病気を治すなど、特別な力が宿ってい ると信じられていました。また、この日に焼いたパンはは一年中かびない、という 言い伝えがあります。この日にパンを焼いて、それを台所に吊るしておくと邪悪な 力、特に火災から守られると信じられていました。また、この日に焼いたパンを 持って船に乗ると、遭難しないという言い伝えもあります。ある地方の農民は、ね ずみから穀物を守る力もあると信じていたそうです。

このホット・クロス・バンについては、英国版岸壁の母とも言える話が、ロン ドンの Devons Road にある "The Widow's Son" というパブに残っています。

イースター・エッグ (Easter Eggs)

昔は、本物の卵を交換しましたが、最近ではチョコレートの卵をプレゼントする のが習慣となっています。(チョコレート屋も考えたものですね。)卵型をした チョコレートから(大きなものは中が空洞になっており、そこにアソートタイプの チョコレートが入っているのが普通)、ウサギの形をしたチョコレートまでいろい ろなものが売られています。

シムネル・ケーキ (Simnel cakes)

マジパンの飾りのついた、どっしりしたフルーツケーキ。(イギリス人お気に入 りのタイプ。)四旬節からイースターにかけての季節につきもの。特にイースター の時期に贈りものに選ばれるのは、黄色い卵の形をしたマジパンの飾りがたくさん 上にのったケーキです。食べたことはありませんが、見た目はとてもかわいい。

     ● 一言イギリス英語講座 - "GM food"

遺伝子組み換え技術を利用して作られた農作物を材料とする食品 (genetically modified foods) のこと。同様の意味で、否定的な意味を込めた、genetically manipulated foods とか、もっとセンセーショナルな、Frankenstein foods などと いう言い方も、マスコミに好んで使われています。この数ヶ月間、特に話題になっ ている言葉です。

野菜の遺伝子を組み換えることにより、害虫に強い野菜を作り、収穫量を増加さ せるなど今後予想される世界人口の爆発的増加に向けて画期的な技術と最初は思わ れていましたが、最近ではその弊害のほうが大きく報道されています。最初は、一 品種に集約されることにより、その作物が壊滅的な打撃を受けた場合、人類は飢餓 に陥る、というようなものでしたが、最近では、GM食品は、それを食べた人間の 遺伝子に影響を与え、癌や免疫異常を引き起こす可能性がある、という報告が出て おり、不安が広まっています。

GM作物の代表的なものが、アメリカ産の大豆と加工用トマトです。とくに大豆 は油としていろいろな加工食品に使われています。政府は、遺伝子組み換え操作を された大豆及びとうもろこしを含む食品には必ずその旨を表示するよう9月19日 から義務づけることに決定しました。食品製造会社のみならず、レストランやケー タリング業でもGM食品を使用する場合にはそれを表示しなければなりません。こ れによって、レストランで出される食事を検査官がテストし、GM大豆やとうもろ こしが検出された場合、罰金が課せられるようになります。食品関連業界には厳し い時代になりますね。

狂牛病が一段落した後は、GM食品騒動と、食べ物に関する不安は後を絶ちませ ん。今度は菜食主義者も安全ではないし。いつになったら、安心して何でも食べる ことができるような世の中になるのでしょうか。

     ● 次回予告はないのだった

というわけで今回はイースター特集をおおくりしました。イースターはもともと は春の訪れを祝うお祭り。やっぱりイギリスの春はいい。長く暗い冬から一斉に花 や木が目覚める感じです。そして、夏といういい季節に向かっていくという期待が ふくらんでいきます。

いくつかあたためているネタはあるのですが、次回は今のところどんなテーマで 行くかは決まっていません。でも、皆様のご期待にそうべく、がんばって早めの更 新を心がけています。今後ともご支援をよろしくお願いします。

 The Widow's Bun

毎年1個、これまでに200個余りのホットクロスバンが 聖金曜日 (Good Friday) に焼かれてきました。このホットクロスバンは、「ウィドウズ・サン」 ("The Widow's Son") パブの天井から吊る下げられた網の中に入っています。毎 年1個のホットクロスバンを船乗りに加えてもらい、そのかわりに1パイントの ビールをおごるというのが、このパブの経営者に与えられたパブの賃貸条件なの です。伝説によると、かつてこのパブを経営していた未亡人の息子が海で行方不 明になったそうです。この未亡人はいつの日かに息子が戻ってくるのを待ちつつ、 毎年一個ホットクロスバンを息子のためにとっておきました。この女性が死ぬと、 パブの名前は今日のものに変わりましたが、この習慣だけは変わらずに続けられ ています。実際、中には200年以上たったパンもあるそうです。しかしながら、 この伝説は、聖金曜日に焼かれたパンは腐らないという言い伝えからきているの ではないかということです。

(Reader's Digest "Folklore Myths and Legends of Britain" より)

イースターの最新情報を追加しました。"Tales from the Riverside"(河畔物語)をご覧ください。

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