● イギリスの献血事情
今回はちょっとマニアックなテーマで迫ります。筆者紹介のコーナー "Beanstalk"
を(サイト名と同じなのでちょっとまぎらわしいですが。)読んで下さった方なら
ご存知のことでしょうが、わたしの趣味は献血です。日本にいた頃は、八王子赤十
字血液センターの手帳に、献血センターのスタンプがたまっていくのを見ては喜び
にひたっておりました。(母が手帳を洗濯し、スタンプが全部消えてしまった時に
は泣きましたが。)そして、ここイギリスに来ても献血は相変わらずわたしの趣味
です。というわけで、今回は筆者の趣味の紹介を兼ねて、イギリスの献血について
書いていきたいと思います。実は、このテーマは、本HPの常連訪問客でもある
(感謝)会社の友人のすすめにもよるものです。
本題に入る前に、なぜ献血が好きなのか?というFAQ(よくある質問)から。
それは、これほど有効な人助けはない、ということです。例えば、慈善団体に10
ポンドを寄付したとします。そのうちのいくらが実際に困っている人の手に渡るで
しょうか?たぶん多くは、団体の運営費(役職員の給与や諸経費)に消えてしまう
でしょう。その点、献血は、あげた分全部が必要としている人に行くわけです。ま
た、ホームレスを自称する人の中には、一日の物乞いを終えた後、角の向こうに停
めておいた車に乗って、自分の家に帰っていくような不届き千万な連中もいます。
この点でも、献血は、本当に必要としている人に必要としているものを与えること
ができるわけです。というような立派な理由もありますが、結局のところ、一度す
るとやみつきになるというのが、献血のこわさです。
では、本題に入ります。献血活動を行っているのは、イングランドでは、"The
National Blood Service" という団体です。(ウェールズ、スコットランド、北ア
イルランドにも、それぞれの地域を担当する同様の団体があります。)"National
Blood Service" の14の地域センターが、常設の献血所や献血車を利用したり、
各地の施設(病院、会社、体育館や集会所など)を巡回して、献血活動を行って
います。
さて、ここからは実際の献血の手順です。(なるべくさらっと書きますので、
気の弱い方、ビジュアルな想像力のたくましい方も安心して下さい。)献血所に入
ると質問状を渡されますので、これに記入をします。質問は主に、マラリア、エイ
ズ、B型及びC型肝炎など(最近加わったのが、人間版狂牛病と呼ばれるクロイツ
フェルト・ヤコブ病)に感染していないかどうかを確認するためのものです。少し
前までは、日本もマラリアの危険地域に入っていました。日本脳炎のせいでしょう
か?記入済みの質問状を提出し、名前・住所の登録をします。それから、比重の
チェック。これにパスすると、次はいよいよ本番。この間、頻繁に住所・氏名・生
年月日の確認があります。(混同があるとこわいですよね。)基本的には右利きの
人は左腕から血を採ります。(もちろん、有望な血管を探してからですが。)実際
に献血針を挿入するのは、婦長クラスの熟練者のようです。以前は、献血針を挿入
する前に、局部麻酔の注射がありました。その頃は、二回も針を入れられるよりは、
多少痛くても本番だけでいいのに、と思いましたが、やっぱり局部麻酔はあったほ
うがいいと前回は(文字どおり)痛感しました。経費節減のためでしょうか?パン
フレットによると、希望すれば局部麻酔をしてもらえるようです。一回に採取され
る血液の量は、450ミリリットル。しばらく横になって休んでから、ご褒美の時
間です。この時、献血者係の人が、お茶係の人に、冷たい飲み物(普通、思いきり
薄いオレンジジュースかレモンジュース)か、暖かい飲み物(コーヒーか紅茶)の
どちらでもいいかの指示をします。わたしの観察及び経験からすると、冷たい飲み
物を指定された人は「危ない」人や初体験の人の場合が多いようです。どちらでも
いいと言われた場合は、貧血などの後遺症(?)の可能性が小さいとみなされたと
いうことのようです。献血後、暖かいものを飲むと血液の流れを急変させたりして
よくないのでしょうか?このへんはさだかではありません。最近の日本の献血では、
テレフォン・カードをくれたり、食べ物・飲み物もなかなか豪華版のようですが、
(わたしが常連だった頃は、三角パックのオレンジジュースを最後に一個くれただ
けでした。)わたしがこちらで行く献血所では、上記の飲み物の他に、食べ物はビ
スケットまたはポテトチップスだけです。輸血が必要になった時、常連献血者には
優先的に血液を手配してくれる、などというような制度もないようです。売血もあ
りません。つまり、イギリスの献血活動は人々の純粋な善意によって支えられてい
るわけです。
もう一つ、わたしが八王子赤十字センターの常連であった頃には耳にしなかった
ことがあります。それは、「成分献血」です。これは、赤血球、血漿、血小板(そ
れに時折、白血球も)という血液成分の中から特定の成分のみ(多くの場合は血小
板)を提供する方法です。これに相当する英語は "apheresis" です。(とうとう
専門用語まで出てきてしまいました。これであなたも献血通。)通常の献血です
と、次の献血まで12週間から16週間をおかないといけません。(と "National
Blood Service" では言っています。わたしが日本にいた頃はもっと頻繁にしてい
たような気がしますが。当時は250ミリリットル献血だったからかもしれませ
ん。)これは献血によって失われた鉄分を十分に回復するための時間を与えるため
です。しかしながら、成分献血の場合、赤血球は失わないので、2週間から1ヶ月
の間隔で献血をすることができます。一方、この方法の短所は、時間がかかること、
特別な装置のある常設献血所でしか献血を行えないことです。"apheresis" は、採
血された血を特殊な装置にチューブで送り、そこで攪拌分離し、必要な成分だけを
抜き取って、また血を体内に戻すという作業を繰り返す方法です。そこで、通常の
献血が10分ほどで終わるのに対して、この方法だと1時間強かかります。このよ
うな事情から、イギリスでは、成分献血をするのは専用装置のある常設献血所
("Static Clinic"と呼ばれているそうです。)の近くに住む人、またはその近辺
で働いている人に限られているそうです。
最近導入されたのが、献血者カード制度。個人データの収められた磁気テープが
ついたプラスチックのカードです。献血時の事務処理を簡単にするための新案です
が、このカードは献血回数によって色が異なっています。わたしに送られて来たの
は、5回〜9回献血をした人用の青いカード。ますます、常連献血者の情熱をかき
たてられます。成分献血専門の人には一種類の特別カードだけ。上記のような理由
から、通常献血とは献血頻度が異なるからでしょう。また、最近読んだタウン紙の
記事によると、献血95回以上の人を招いてのお食事会が最近行われたそうです。
(さすがに集まった人は年配の方ばかりだったようですが。)目指すはお食事会
と紫カード(100回以上の人用)!!