Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第20回の目次

● 8月の行事
● "port" の話
● 一言イギリス英語講座 - "over the moon"
● 世紀末の世の中

     ● 8月の行事

       早くもうちの周りの麦畑も黄金色に色づき、秋の気配が漂っています。悲観主義
     者は、刻々と短くなる夏の日を嘆きはじめました。が、8月もいろいろなお祭りが     
     目白押しです。

     Total eclipse of the sun (8月11日)

       今世紀最後の天体ショーと言われる皆既日蝕が、コーンウォール地方を中心に、
     デボン州の南部、チャンネル諸島の一部で見られます。これ以外の地域では、部分
     日蝕となり、ロンドンでは96%程度が欠けるそうです。この率は、北へ行けば行
     くほど低くなるとのこと。もっとも、皆既日蝕が見られる地域でも、それは7秒か
     ら最長でも2分強くらいしか続かないそうです。時間は、午前11時15分前後で
     す。(これも場所によって異なります。)前回の皆既日蝕は1927年で、この時
     の舞台は北イングランド。当日は電車による大規模な民族大移動が見られたそうで
     す。今回はその反動か、地元コーンウォールのホテルの予約率はいまいちとのこと。
     次回は2090年ということで、これが一生に一度のチャンスとなる人も少なくあ
     りません。もっともはっきりした皆既日蝕を見る可能性の大きい場所は、イランだ
     ということです。
     
     Edinburgh Tatoo (8月6日〜8月28日)

       1950年以来毎年8月にエジンバラ城で行われている軍隊音楽の祭典。
     "Tatoo"は、オランダ語の "Tap-toe" (栓をひねって閉める)から来ています。昔、
     兵士たちは営舎に戻りなさい、居酒屋のビールの「栓を閉める」ように、という太
     鼓の合図が毎晩されました。これが、タトゥー(帰営太鼓)の起源です。後に、大
     楽団による軍隊音楽の儀式的な演奏に発展しました。毎年、20万人が軍楽隊の演
     奏を見るために世界各国から集まります。実に、その35%が外国人観光客だとい
     うことです。

      Edinburgh International Festival (8月15日〜9月4日)

       こちらは1947年に始まった芸術の祭典。ダンス、演劇、オペラ、音楽などさ
     まざまな催しがエジンバラ市内で行われます。また、さまざまな「アーチスト」の
     パフォーマンスが市内の通りでも見られます。催し物の日程など、詳しい情報は下
     記の公式サイトで。

     http://www.eif.co.uk

      Notting Hill Carnival (8月29・30日)

       ロンドン西部のノッティング・ヒル・ゲイトで行われるお祭り。カリブ海諸国か
     ら移住してきた人たちのストリート・パーティーとして1966年に始まりました。
     それが今では、スポンサーもつき、ヨーロッパ最大のストリート・フェスティバル
     となっています。昨年は、土壇場になってスポンサーが降りてしまったことから、
     開催が危ぶまれましたが、リチャード・ブランソン氏のヴァージン・グループが急
     遽スポンサーをかってでて、無事開催されました。今年は、そのヴァージン・グ
     ループがスポンサーを降りているため、カーニバルの行方が心配されています。例
     年通りならば、上記の日に開催されるはずです。二日間にわたって行われますが、
     お祭りのクライマックスといわれるのは、Mas (mascarade の略) と呼ばれる仮装
     行列が行われる、バンク・ホリデーの月曜日。他にも、ダンサーや山車 (float) 
     が通りを練り歩き、異国情緒豊かな食べ物の露店なども出ます。一時期は、暴動や
     暴力事件などが問題になりましたが、近年は平和裏に行われているようです。

     Late Summer Holiday (8月30日)

       スコットランドでは8月2日がバンク・ホリデーになります。イングランドの
     人々は、この日になると、夏は終わりだなと感じます。不思議なことに、(わたし
     の経験では)、どんなにそれまで天気のよい年でも、この日の前にはぴたりと天気
     が崩れて涼しくなります。ちょうど日本で言うと、夏休み最後の日といった哀愁の
     漂う日です。あとはひたすらクリスマスを楽しみにするだけ。


     ● 伝統的な英国紳士の飲み物 - "port" の話

       今回は第18回のコーニッシュ・パイに続き、食のうんちく第2弾。このシ
     リーズでは、味よりはその背後にあるイギリス文化についてご紹介していきます。
     今回は、わたしの大好きなお酒、ポートの巻。

       ポートは、早い話がブランデーを加えてアルコール度を高くしたワイン。ですか     
     ら、通常小さめのグラスでいただきます。(別に、がぶがぶ飲んではいけないとい
     う規則はありませんが。)ブランデーを加えることによって、葡萄の実の醗酵を止
     めます。その結果、イーストによって葡萄の糖分が奪われるのを防ぐため、甘みが
     残り、アルコール度も高くなるわけです。味としては、ちょっと甘めだけど、なん
     ともいえない苦みの混じった豊潤なワインと言った感じでしょうか。

       ポートは、ポルトガルで作られるイギリス人のための飲み物です。厳密には、ポ
     ルトガルのドゥーロ地方(特に有名なのが、オポルトと呼ばれる市)で作られたも
     のを指します。ポルトガルからイギリスへのワインの輸入は1353年に始まりま
     したが、今のポートができあがったのは、1678年のことです。イギリス人の口
     にあうワインを求めてポルトガルにやってきたリバプールのワイン商人の二人の息
     子が修道院を訪れます。そこですすめられたのが、ちょっと甘めの赤ワイン。早速、
     二人は買えるだけのワインを買いつけました。そこで、(甘いものに目がない)修
     道院長が明かしたこのワインの秘密は、地元で作られたブランデーをほんのちょっ
     ぴり加えたということ。兄弟が、この時、輸送に耐えるようにさらに少量のブラン
     デーを加えました。こうして、今日のポートができあがったわけです。この後、イ
     ギリス・ポルトガル間で結ばれた好意的な関税条約におかげで、18世紀、ポート
     の人気は飛躍的に高まります。

       ポートには大きくわけて、ヴィンテージと (Vintage) とウッド (Wood) という
     2つの種類があり、ウッドにはさらに Ruby, Tawny, White の3種類があります。
     ヴィンテージ・ポートは、ある特定の年に(10年に2、3回あるかないかだそう
     です。)特定のぶどう園で取れた葡萄を2年ねかせて作られます。このように厳選
     された葡萄のわずか10%だけがヴィンテージ・ポートになり、残りはウッド・
     ポートになります。ヴィンテージ・ポートはねかせればねかせるほど味がよくなる
     と言われ、子供が誕生した時にヴィンテージ・ポートを買い、その子が21歳の誕
     生日を迎えた時に飲むというような楽しみ方をする人もあるようです。ウッド・
     ポートのうち、ルビー・ポートは、暗赤色をしやや甘口。木の樽に入れて数年ねか
     したもの。トーニ・ポートはルビー・ポートをさらにねかしたもので、(20年く
     らい)ルビーほど甘くなく、スムーズな味わいだそうです。ホワイト・ポートはオ
     ポルト地域の白葡萄から作られた甘い白ワイン。赤色をした他のタイプのポート同
     様の製造工程をたどりますが、他のポートが食後に飲まれるのに対して、ホワイト・
     ポートは食前酒として飲まれるそうです。(わたしはトーニとホワイトは試したこ
     とがありません。)

       ポートは昔から紳士の飲み物としてたしなまれてきました。よく、イギリスの時
     代物映画などで、貴族たちがお食事をした後に、ご婦人方は別の部屋に下がり、殿
     方だけが、葉巻を吸うために食堂に残るシーンがあるでしょう?そこで紳士たちが
     テーブルで手から手へ回しながら楽しむのが、ポートです。つねに時計回りに回さ
     れます。

       そういうわけで、今回はとてもイギリス的な飲み物、ポートについてでした。


     ● 一言イギリス英語講座 −"over the moon"

       8月というと、サッカーファンには待ちに待った新シーズンの到来。今年も、     
     Charity Shield (今年は8月1日)によって、シーズンが開幕します。チャリ
     ティー・シールドは通常、前シーズンのプレミア・リーグとFAカップのそれぞれの     
     優勝チームが対決することになっていますが、昨年はその両方をマンチェスター・
     ユナイテッドが制覇したため、リーグ2位のアースナルがマン・Uに挑みます。

       というわけで、サッカーシーズン到来を記念して、サッカー関係の言葉を今回は
     ご紹介します。応援しているチームが勝って、うれしいファンの気持ちを表したの
     が、"over the moon"。一方、ひいきのチームが負けて、がっくり。そんなときに
     は、"I feel (I'm) sick as a parrot."  どちらの表現も、1978年頃に、よく
     使われるようになりました。たぶん、サッカーの試合後の解説が流行のもとではな
     いか、ということです。ただし、"over the moon" という言葉の語源は、かなり古
     いものと思われます。

       サッカーファンたちの会話を聞いていると、ひいきのチームを「アースナル」と
     かチーム名では呼ばないんですね。"we" と言います。すっかり同化しきっている
     ということでしょうか。女王様が自分のことを言うのに、"I" と言わずに "we" と
     言うのを "royal 'we'" と言いますが、サッカーファンの "we" は "loyal 'we'" 
     と言ったところでしょうか。
    

     ● 世紀末の世の中

       1999年の7の月ももうすぐ終わりですね。ノストラダムスには全く無関心な     
     イギリス人と思っていましたが、地球最後の日、7月4日(この他にも7月14日
     と8月22日という説があります。)の前日には、チャンネル4で、映画を含む5
     本のノストラダムス関連番組が一挙放映される「ノストラダムス・ナイト」という
     企画がありました。視聴率のほどはさだかではありません。一方、上に書いた通り、
     8月には日蝕がありますが、11日11時11分の日蝕の間に、何かが起こるとい
     う説もあります。また、ある人はそんなものより、2000年1月1日午前0時に
     ミレニウム・バグが発生するほうがもっと恐い、と言います。世紀末の世の中、こ
     の手の話は尽きないようです。
     

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