Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第29回の目次
● 冬眠暁をおぼえず
● ハハノオシエ
● 一言イギリス英語講座 - "full monty"
● 電飾ブーム

● 冬眠暁をおぼえず

いよいよ、イギリスも寒くなってきました。でも、イギリスの冬のつらさは、寒さよりはむしろ暗さのほうでしょう。イングランド南部でも、夕方は4時にはもう真っ暗、朝は8時過ぎまで明るくなりません。天気の悪い日だったりすると、一日中夕方のようです。

わたしは、毎日通勤に長距離バスを利用しています。片道1時間ほどですが、ロンドンまでノンストップで、全席リクライニングシートの快適さ。どこでも眠れることを得意技とするわたしは、ここでも30分は毎日熟睡です。あまりに、ぐっすり眠りすぎて、起きたときに「ここはどこ?わたしは誰?」という状態になることもたまにあります。バスに乗っているのだが、会社に行くところなのか、家に帰るところなのかがわからない・・。そんな時、実はこれから会社に行くところだったと気がつくことほど悲しいことはありません。


● ハハノオシエ

しばらく前に、「ウィークリーまぐまぐ」の中で、「ハハノオシエ」という読者投稿のコーナーがあったのをおぼえていらっしゃるでしょうか?自分に都合のいい、おとなのうそというのが、まぐまぐ版ハハノオシエの意味するところでした。わたしの母はたいへん迷信深い人だったので、うちには本来の意味でのハハノオシエというのが、数え切れないくらいありました。「新聞や本をまたぐと、カマイタチがおきて、切り傷ができる。」これは試すのもちょっと恐くて、かなり長いこと、我が家では犯すべからざるハハノオシエでした。「夜中につめを切ると親の死に目にあえない。」最近は、イギリスでは夜中だが、伝承発祥地の日本は朝なのでよい、と解釈して、難を避けています。「ご飯を残すと目がつぶれる。」これは、日本の労働集約型農業と違って、この外国産の米は、そんなにお百姓さんに苦労をかけていないので、残しても大丈夫、と言い訳しています。この他にも、「女の子が口笛を吹くとひげがはえてくる。」「夜、口笛を吹くとヘビが出てくる。」などなど、枚挙にいとまがありません。
さて、前書きが長くなりましたが、今回はイギリス版ハハノオシシエを集めてみました。

1.はしごの下を歩くと悪いことが起きる。

これは結構おなじみかもしれませんね。かなり伝統のあるハハノオシエ です。現代でも、信じる人は多いんですよ。知人がある建物に行った時のことです。入り口は二つ。片方にははしごが掛かっていたそうです。もう一方の入り口を見ると、そこにはかなり長い行列が。迷信を信じない知人は、長い行列を横目に、はしごの下をくぐって中に入ったそうです。日本のハハノオシエ同様、実はこれにも、裏にはもっともな理由があります。はしごがそこにあるということは、その上には作業をしている人がいるか、ペンキや工具がその上に置かれている可能性がある。だから、下を通ると何かが落ちてくるかもしれない。そこで、はしごの下を通るのは避けなさい、というのが、イギリスの、ありがたいハハノオシエなのでした。

2.塩をこぼすと悪いことがある。

これはきっと塩の貴重さに基づくものなのでしょう。でも、このオシエには、ありがたいことに善後策があります。それは、こぼした塩を左の肩越しに(ここにデビルがいると信じられています。)一つかみ投げると、悪いことは起こらない、というものです。

3.鏡を割ると7年間不運が続く。

最大級の運の悪さですね。鏡を割ると死ぬというバージョンまであるそうです。昔、鏡に映った姿は、その人の魂であると信じられていました。また同様の理由で、写真に撮られると、自分の魂も取られると信じて、写真に撮られるのを嫌がる人がいるそうです。4年前にわたしも小さな鏡を落として割りました。あと3年、不運が続きます。どなたか、この言い伝えに対する対策をご存知でしたら、教えて下さい。

4.13日の金曜日は縁起が悪い。

金曜日はキリストが十字架にかけられた日として、13日に限らず、縁 起の悪い日とされているようです。金曜日に関わる迷信も少なくありません。船乗りや漁師は特に迷信深いことで知られていますが、(天候という自分の力を越えるものに、自分の命をゆだねざるをえないからでしょう。)彼らの間では、金曜日は悪魔の日として、忌み嫌われていました。この日に始まった仕事は決して完成しないという言い伝えがあります。また、金曜日には、一般的に、魚を食べる習慣もあります。キリスト教版精進料理なのですね。金曜日は、フィッシュ・アンド・チップス屋もいつも以上の賑わいです。

5.緑は運の悪い色。

緑は、古くから妖精の色と信じられていることから来たものと思われま す。特に、結婚式では、花嫁は緑を着てはいけないと言われています。(正式の結婚式ではほとんどの人が白を着るようですが。)これは、緑を着ると、妖精の魔力の虜となるかもしれないからだそうです。ついでに、結婚式に関しては、花嫁は、"something old, something new, something borrowed, something blue" を身につける習慣があります。古いものは、過去との関係を維持すること、新しいものは未来、借り物は現在との関係、青は純粋さを、それぞれ意味するそうです。わたしは、この日のために 買ったクリーム色のスーツに、古いストッキング、友人から借りたパールのネックレスをつけて、ブーケには矢車草を入れてもらいました。そのおかげかどうか、9年近く無事に結婚が続いています。

6.家の中で傘をさすのは縁起が悪い。

わたしの会社では、雨の日には、日本人たちが(わたしを含め)、イギ リス人に嫌がられながらも、会社の中で傘を広げて干します。

7.階段ですれ違うのは縁起が悪い。

そういうわけで、反対側(上か下)から来る人を、止まってやり過ごす のだそうです。階段で道を譲ってくれるイギリス人はなんて礼儀正しいのだろうと感心していましたが、実はこういう理由があったのですね。もっとも、混雑した広い階段は、この限りではないでしょうが。

・・・と、ここまで読んできて、気づかれませんか?それは、これらのオシエは守らないとどうなるかというと、すべて「縁起が悪い(bad luck、unlucky)」。そこへ行くと、日本のハハノオシエは実に想像力に富んでいます。「カマイタチが起きる。」「目がつぶれる。」なんか、説得力がありますよね。独創性のない日本人といわれますが、このへんの想像力にかけては、誇りを持ってもいいのではないでしょうか。

でも、イギリスにはこんなのもあります。

8.カップの中にスプーンを二つ入れる人は、二回結婚する。

まあ、今時再婚は普通ですけどね。それとも重婚を意味するのでしょうか?

9.Touch wood!

"Anglo-bites" ホームページ版第11回の「一言イギリス英語講座」でも取り上げましたが、これは悪運を取り払うオマジナイの言葉。自慢げなことを言ってしまった後に付け加えます。たとえば、今まで一度も大病をしたことがないとか、泥棒に入られたことがないとか。由来としては、木には悪運を取り除く特別な力が備わっていると考えられていたという説と、キリストが木の十字架にかけられたことから来たという説とがあります。"Touch wood!" と言った後には、近くにある木でできたものを実際に触ったり、またただ口で言うだけだったり、自分の頭を触ったり(!)します。思うに、これは日本の「おかげさまで」に当たるものでしょう。自分が無病息災でいられるのも、自分の力以外のもの(神様、仏様、周囲の人々)のおかげである。だから、それを忘れて自慢をすると、悪いことが起こるぞ。これが、日英両方の言葉に共通した戒めなのではないでしょうか。

まだまだありますが、今回はこのへんで。


● 一言イギリス英語講座 - "full monty"

1997年にイギリスで爆発的なヒットとなり、皆さんの中には、イギリス映画の代表として 記憶されている方も多いでしょう。その映画のタイトルがこれですが、意味は「すべてひっくるめて、全部」。この言葉は、1980年代初めにはすでに使われていたようですが、突然、よく使われるようになったのは、1990年代に入ってからです。

語源については、はっきりしません。いくつかの説があります。
まず、"full amount" がなまって、"full monty" になったという説。
次に、モンタギュー・バートンの営む貸衣装業から来たという説。このモンタギュー・バートンの店では、スーツを売ったり貸したりしていたのですが、婚礼用スーツなどを完全一式(ネクタイから、シャツ、靴下まで)借りることができました。この一式がフル・モンティ(モンタギューの愛称)と呼ばれていたようです。
また、スペインのトランプのゲームに由来するという説もあります。このゲームでは、テーブルの上に置かれたトランプの山が、"monte" (イギリス人が発音すると、モンティという感じになります。)と呼ばれていました。
また、別の説によると、モンゴメリー(これも愛称はモンティ)元帥には、いつも勲章を一式全部つける習慣があったためとか、フル・イングリシュ・ブレックファーストを毎日要求したから、とか言われます。

アメリカ公開前に、この映画は、アメリカでは改題されるという噂を聞きました。アメリカでは通じない言葉だからだそうです。結局は、同じ題のまま、公開されたようですが、これ以外の題はちょっと考えられないですよね。
わたしの好きな映画の一つです。これがアメリカ映画だったら、主人公たちは名声を博し、その後金持ちになってみな幸せに暮らしました、という成功ストーリーになっていたところでしょう。ところがそうでないところが、いかにもイギリスらしくていいなあと思うのです。


● 電飾ブーム

最近は、日本でも電飾をほどこす家庭が増えてきたということですが、今年は、わがビーン村でも、去年より多くの家が電飾をしているようです。今までも、家の中を飾る人はたくさんいましたが、今年は外を飾る人が多いので、特に目につくようです。これも、イングランド南東部での住宅ブームを反映した、好景気現象の一つなのでしょうか?

そのようなクリスマスムードの中で、今週のタウン紙にこんな記事がありました。去年から華やかなクリスマスの飾りでビーン村の住民を楽しませてくれていたお宅なのですが、(去年、当HPのトップページで、「ビーン村のクリスマス」というタイトルでこの家の写真を載せましたので、覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。)今年はチャリティー団体のために寄付金集めを始めました。うちの飾りを楽しんでくれた人はここにお金を入れて下さいということで、寄付金箱をドアの外に置いておいたそうです。ところが、始めて4日目にして、その寄付金箱が盗まれたということです。寄付金箱はドアにチェーンでつながれていたらしいのですが。なんだか、心が寒々としてくる ような話でした。

最後がちょっと暗い話題になってしまいましたが、それではみなさま、今年も、Happy Christmas!


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