Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第33回の目次
● パリの新しい珍味?
● 女性と苗字
● 一言イギリス英語講座 - "red tape"
● 日本のアイリッシュパブ

● パリの新しい珍味?

先日、朝のニュース番組で、こんな話題を取り上げていました。パリで、フィッシュ・アンド・チップス屋を経営するスコットランド人が、マーズ・バーのてんぷらを売り出したそうです。そう、あのキャラメルとかナッツをチョコレートでくるんだマーズ・バーに、衣をつけて揚げたものです。道行くパリっ子たちに、試食をさせては感想を聞いていました。ほとんどは、「悪くないんじゃない?」と親切なコメントを述べていましたが、ある男性は、「マーズ・バーが食べたければ、マーズ・バーを食べるし、フィッシュ・アンド・チップスが食べたければ、フィッシュ・アンド・チップスを食べる。プレゼンテーションが問題だ。」と、なんだかわかるような、わからないようなご意見を述べていました。でも、さすがフランス人、食に対するこだわりが感じられますね。また、別の人は、こう言っていました。「イギリス人の食べるものは高カロリーでいけないよ。」鋭いっ!あのマーズ・バーに、小麦粉でできた衣をつけて、たっぷりの油で揚げたら、成人女性1日分のカロリー摂取量くらい軽くオーバーしてしまうかも。

さて、あなたはパリに行ったら、このマーズ・バーのフライ、試してみたいと思いますか?


● 女性と苗字

ひところ、日本でも夫婦別姓問題が話題になったことがありました。また、苗字の問題は、一人っ子同士の結婚などさまざまな場合で、深刻な問題になります。その点、イギリスではどうでしょう?上流階級の由緒ある家系でもない限り、それほど、家名を継ぐことにはこだわりがないような気がします。

この理由としては、日本の戸籍制度のような、一人の人間を時を追って記録する制度がないということがあげられるのではないでしょうか。

イギリスでは、出生・結婚・死亡という人生の三大イベントの折りに、届け出を登記所に提出することになっています。また、離婚の時には、裁判所を通して書類のやりとりが行われ、最後に離婚判決がおります。離婚の記録は上記の記録とはまた別のところに保管されます。このような事情で、日本の戸籍制度のように、出生・結婚・離婚・死亡といった出来事をすべて線で結ぶような記録は存在しません。「籍」というものがないため、結婚時にも、どちらの姓を名乗るかという決断を迫られることはありません。それゆえ、女性が旧姓をそのまま使うか、夫の姓を名乗るかはそれほど問題にならないのでしょう。実際、わたしも、パスポートは旧姓(つまり、日本の戸籍上は旧姓のままということになります)、それ以外は夫の姓を名乗っていますが、これで不都合が起きたのは、頭の固いメリディアナ航空にチェックインした時の一回きりです。

イギリスでは、ほとんどの女性は結婚した時に、まず迷うことなく夫の姓を名乗るようです。スパイス・ガールズのヴィクトリア・アダムスは、ミセス・ベッカムに、メルBはメルGに、自然な形で名前が変わりました。(もっとも、これは世間がそう呼んでいるだけで、本人たちがどう呼ばれることを望んでいるのかはわかりませんが。)

例外は、社会的に旧姓が定着している場合、ご主人の姓が不都合な場合(ちょっと変わった苗字も中にはあるんですよ。)、その女性が家系の最後の一人であるような場合などです。このような場合、女性が旧姓を名乗るケースがあります。旧姓を名乗る場合には、肩書きは正式には "Miss" になります。よく新聞などで、「ミスだれだれの夫が・・」というような文章が見かけられますが、これは結婚していても、通常は旧姓で通していることを示しています。また、女性が旧姓と夫の姓とをハイフンでつないで、結婚後の姓とすることもあります。このような姓を "double-barrelled name" (二重姓)といいます。一般的に、二重姓はよい家柄の代名詞のように言われています。ハイフンでつないででも残しておきたいくらい、由緒ある名前ということなのでしょうね。

肩書き (title) の話がでましたが、各種用紙などで選択肢にあがるのは、「Mr、Mrs、Miss、その他(ご記入下さい。)」というのが一般的です。その他というのは、博士号所持者や医者の "Dr" や、大学教授の "Professor" など。イギリスでは、"Ms" というのはそれほど頻繁に見かけません。本人自ら名乗る場合にしても、ビジネス文書でたまに見かけるくらいで、たいていの人は、ミスまたはミセスを使うようです。既婚女性の場合は、ミセスを好んで使う人が圧倒的に多いようです。というのも、結婚しているということは、女性にとって一種のステータスという考えがあるから。(あるいは、結婚をステータスとして考える女性は結婚し、そうでない女性は、パートナーと同居し、子供は作っても、結婚はしないと言ったほうがいいのかもしれません。)結婚を一種のステータスとして考える傾向は、現在50歳以上の世代にはたいへん強いようです。"I am a married woman!" と言ったら、「だから敬意を払いなさい。(なめるんじゃないわよ。)」という意味です。このせいもあるのでしょう、この世代では、離婚後も前夫の姓を使い、ミセスを名乗り続ける女性が少なくありません。子どもと同じ姓を名乗っていたいという希望もあるのでしょう。もちろん、離婚したら女性は旧姓に戻らなければならないという法律はありません。このへんが戸籍制度のある日本との大きな違いではないでしょうか。また、未亡人には、ご主人の生前同様、夫の姓で、ミセスだれそれと呼ぶのがエチケットでもあります。

イギリス人にとって、苗字というのは、制度に強要されるものというよりは、社会的慣習によって便宜的に使うという色合いが濃いようです。


● 一言イギリス英語講座 - "red tape"

「官僚主義、お役所仕事」。特に、事務手続きで実際の仕事が遅れることを意味します。これはどこの国も同じ事情のようですね。18世紀にもさかのぼって使われていたという古い歴史を持った言葉です。官吏や弁護士などが、書類を赤いリボンで束ねていたこと(今でもこの伝統は残っているようです。)からこの慣用句ができました。もっとも、実際の紐の色はピンクだということですが。

お役所は赤が好きなのでしょうか、大蔵大臣の予算を入れた皮のケースも赤ですね。3月21日は、予算発表でした。このケース、ブラウン蔵相が就任して、数十年の歴史を誇る古いものから、新品に取り替えられました。新風を吹き込むというニュー・レイバー の戦略の一環なのでしょうが、古いものにこだわるイギリス人のがんこな一面が好きなわたしにはちょっと残念な気がします。


● 日本のアイリッシュ・パブ

3月17日は、St. Patrick's Day でした。アイルランドの守護聖人の祝日ということで、アイルランド共和国と北アイルランドでは、休日になります。聖パトリックはアイルランドにキリスト教を布教したお坊さん。ヘビ退治をしたことでも有名で、だからアイルランドにはヘビはいないのだそうです。(本当?)

日本でもアイリッシュ・パブが流行しているということですが、この話を夫にしたら「???」。何をもってアイリッシュ・パブと呼ぶかというと、その客なのだそうです。アイルランド人が集まるからアイリッシュ・パブと呼ぶらしい。ロンドンにもアイリッシュ・パブとかアイリッシュ・バーとか自称しているパブがありますが、これは経営者がアイルランド人のようです。(だから、同郷人を慕って、アイルランド人が集まるのでしょうけど。)そうすると、やっぱり、日本のアイリッシュ・パブって、不思議かもしれません。


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