Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第34回の目次
● いきなりお詫び
● イギリスで離婚をする

● いきなりお詫び

ホームページ版元祖 "Anglo-bites"(イギリスつまみ食い)の読者のみなさま、最近、更新が遅れていて、たいへん申し訳ありません。実は、メールマガジンのほうでは、この第34回の次の号まですでに発行されているような状況です。メルマガを始めることによって、もっと頻繁にこのコラムを書くようになり、ホームページの読者のみなさんにも喜んでいただけるだろうというのが当初の目論見でした。ところが、ふたを開けてみると、メイン・トピック(メールマガジン版はこの部分だけです。)の執筆は確かに頻繁になったのですが、それをホームページ版にする(一言イギリス英語講座と初めと終わりの欄を書き加えてHTML形式に編集する)というのが、どうしても後手後手にまわって しまうのでした。加えて、今回は、2週間日本に帰っていたこともあって、メイン・トピックは、メルマガ版ではすでに3月22日に発行されていたにもかかわらず、HP版はここまで遅れてしまいました。初めと終わりのコラムと一言イギリス英語講座を書き加えようとすると、さらに更新が遅れそうなので、今回はこのような縮小版でとりあえず、更新した次第です。次回からは、なるべく本来の形式で、HP版 "Anglo-bites" を続けていきたいと思っていますので、どうぞ、今回はお許し下さい。

● イギリスで離婚をする

ご安心を。別に必要に迫られて、こういう話題を選んだわけではありません。読者の muku さんからのリクエストによるものです。「今や離婚率の高さでは有名?!なイギリスですが日本とはかなり事情が違うようで・・ 別居中というイギリス人にも結構会いました。協議離婚のできない国ということで別居は離婚の一手段であるようですが、やはり一番ポピュラーな方法?実際、裁判で離婚する人もいるのでしょうか?!一読者の希望として今後取り上げることを考えていただければうれしいです。」というわけで、今回は、イギリスで(厳密には、イングランド及びウェールズで、ということになりますが)離婚をするための手引書をおおくりいたします。(夫に気づかれずに調査をするのがたいへんでした。あらぬ疑いは持たれたくないですものね。)

まず、離婚をするための条件。それは、当然ながら、結婚をしていることですが、イギリスで離婚をするためには、少なくとも1年間は結婚をしていないといけません。この理由で、イギリスには、成田離婚ならぬ、ヒースロー離婚やガトウィック離婚はありえないわけです。

結婚の場所がイギリスである必要はありません。最近では、イギリスでも、海外で結婚式を挙げる人が少なくありませんから。(日本で結婚してイギリスで離婚することも可能?)ただし、夫か妻のどちらかが、離婚の手続きが始まった時点で、イギリスに定住する家があるか、1年以上イギリスに住んでいた事実がないといけません。

では、どうやって離婚をするか。イギリスでは、市役所に離婚届を持って行って、受理されればおしまい、というわけにはいきません。離婚訴訟をおこします。まず、州裁判所で、離婚請願書を発行します。この時、二人の結婚が「修復不可能なくらい破綻している」ことを、裁判所に納得させる必要があります。基本的には、以下の5つの理由のうちの1つを離婚を要求する側は証明しないといけません。(1)相手の不倫(2)これ以上一緒に生活していくのが不可能なくらい、相手の振舞いがひどい(3)相手が自分をおいて出ていってから2年以上経っている(4)2年以上別居していて、相手も離婚に同意している。(5)5年以上離婚している。つまり、不倫と理不尽な振舞い以外は、最低2年間の別居生活が条件となります。このような理由から、特にすぐに離婚が必要でない場合(再婚の予定がない場合など)、とりあえず、別居をしようということになるわけです。

不倫の場合には、通常相手方が書類の形でそれを認めることが必要になります。相手が認めそうにない場合には、興信所の報告書など、裁判所が不倫を認めるのに十分な証拠を用意しないといけません。

理不尽な振舞いについては、家庭内暴力がその代表的なものですが、(普通、イギリスで家庭内暴力と言うと、妻に対する夫の暴力を意味することが多いですが、ここで言う家庭内暴力には、子供など、配偶者以外の家族に対する暴力も含まれます。)そこまでいかなくても、酔っ払う、過度のやきもち、家事を手伝ってくれない、経済力がなくて金銭問題をひきおこす、なども十分な離婚の理由となり得るそうです。

さて、こうして離婚請求を裁判所に提出すると、これを受けて、裁判所は、相手方(被告)に離婚請願書のコピーと受領確認書を送ります。被告側は離婚請願書を受け取ったことと離婚に応じるかどうかの自分の意志を明記して、受領確認書を裁判所に送り返します。こうして、法的書類のやりとりが行われ、離婚借判決がおり、そして、さらにその6週間後に、最終判決がおり、晴れて離婚成立ということになるわけです。

というわけで、イギリスの離婚はすべて裁判所を通じて訴訟という形で行われます。では、当事者は出廷しないといけないのしょうか?財産分けや子供の親権について、お互いが同意している限り、出廷する必要は全くありません。また、これらの複雑な法的書類を自分で処理する必要もないのです。イギリスには事務弁護士 (solicitors) という職業があり、この人たちが、あなたの代わりに家を買ったり、離婚をしてくれます。ですから、ただ事務弁護士からの報告を受ければいいだけです。(もちろん、自分ですべて執り行って、弁護士代を浮かせることもできます。)

それでは、離婚にはどのくらいの時間がかかるか?慰謝料の問題や養育権の争いがない場合、訴訟開始から通常3〜4ヶ月くらいで最終判決が下ります。しかし、すべては、書類のやりとりということになりますので、相手側が海外に住んでいる場合や裁判官が休暇に入ってしまったりすると(夏休みを挟んだ訴訟には時間の余裕を見ましょう。)、これ以上かかる場合もあります。

さて、離婚にかかる金額は?事務弁護士の料金は様々です。裁判所の費用としては、離婚訴訟をおこすのに、150ポンド(約2万5千円)がかかります。(1998年の資料を元にしているので、もしかすると、上がっているかもしれません。)そして、最終判決書(これが離婚証明書になります。)に、20ポンド。しかしながら、国の無料訴訟制度を利用している場合、または、生活保護を受けている場合には、これらの費用の支払いを免除されます。

他のいろいろな制度同様、この離婚手続きもまた、改革が叫ばれている分野です。現制度の問題点としては、手続きの時間がかかりすぎる、離婚当事者の間に敵対感情を残す、などが挙げられています。この点を考慮して、調停者の介入を導入するなどの改革案が数年前から出ています。

さて、これがイギリスの離婚事情ですが、高い離婚率で知られるわりには、それほど離婚は簡単なものでもないように思います。日本の協議離婚と比べると、ずっと時間もかかるし、面倒なのではないでしょうか。それにもかかわらず、離婚率が高いのはなぜでしょう?

日本では、好きでなくなったというのは、離婚の理由にはなりませんが、イギリスではなりえます。嫌いでなくても、愛情が冷めたというだけで、別れる理由にはなるわけですね。その点、日本人夫婦の場合は、愛情という積極的な感情がなくなっても、一緒に暮らすことが苦痛でない限り、別れることはないのではないでしょうか?カップルが社交の単位であるイギリスでは、愛情の冷めた相手と生活するのは、かなり苦痛かもしれません。また、西洋人一般の考え方として、二人は一人より楽しいという絶対的な信仰があるような気がします。これでいくと、愛情の冷めた相手と人生を共にするのはたいへんな時間の浪費とも言えましょう。よりよいパートナー出現のチャンスを奪っているわけでもありますから。

また、日本では、子はかすがいと言いますが、子供の結婚までは両親揃っていたい、とか、子供も離婚に対するブレーキとして大きな役割を果たしていると思います。それにまた、バツイチという言葉に表われるように、離婚に対するイメージもネガティブなものがあるでしょう。

このへんが、日本とイギリスとの違いではないかとわたしは考えますが、みなさんはどう思われますか?


[最新号を読む] [バックナンバー一覧を見る] [メールマガジンの登録・解除をする]
[トップページに戻る] [メールを送る]