Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第38回の目次
● 長期休暇の代償
● イギリスの地域対抗意識
● 一言イギリス英語講座 - "carpetbagger"
● わたしの地域対抗意識

● 長期休暇の代償

小渕前首相の合同葬が行われた二日前、ブレア首相が、産休復帰後(男性でも産休って言うんでしょうか?英語では paternity leave ですが。)初めてのスピーチを行いました。約2週間ぶりの公務です。過労とストレスが原因で亡くなったような、小渕前首 相とはとても対照的な気がしました。このくらいの長期休暇がとれれば、もう少し長生きをされたのではないかとお気の毒に思います。やっぱり、長期休暇を容認するような土壌が日本に育たない限り、トップも長期休暇はとりにくいでしょうね。

とはいえ、休暇後のトニー・ブレアを待ち構えたのは、暖かい「お帰りなさい。」の言葉ではありませんでした。休暇中に、首相の党内の最大ライバルとみなされる、蔵相のゴードン・ブラウンが、大学のエリート主義を批判。これが逆噴射して、労働党政府の支持率は下落。復帰後初めてのスピーチも、かなり手厳しく迎えられたようです。トップが長期の休みをとるための代償は、やはり大きい?

● イギリスの地域対抗意識

今年はオリンピックの年にあたり、日本では予選段階からかなり盛り上がっているようですが、ここイギリスではいまひとつのような気がします。オリンピック種目に強いものがあまりないということもあるかもしれませんが、本当の理由はイギリス (Great Britain) ということになると、人々の愛国心がかきたてられないということなのではないでしょうか?サッカー、クリケット、ラグビーなど、イギリスとしてではなく、イングランド・スコットランド・ウェールズなどとして参加するスポーツはかなり盛り上がります。

というわけで、今回はイギリス人の地域対抗意識を、いろいろな角度からご紹介していきたいと思います。ちょっと微妙な問題も含まれますが、軽くお受け取り下さい。また、東京、南ロンドン、ケント州と移り住んだ、わたしの主観も多分に入っておりますが、その点はどうぞお許しを。

民族

上で述べましたように、イギリスは大きく分けて、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドからなります。イギリスで "north/south of the border" という時の "border" はスコットランドとイングランドとの境界線を指します。民族的には、イングランドは、アングロ・サクソン族主体、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドには、ケルト族の末裔たちが住んでいます。スコットランドや北アイルランドのもともとの言語は、ゲール語 (Gaelic) です。最近は、あまり話されていないようで、先日もニュースで、この地方では、学校教育として取り入れるという案が出ていると報じられていました。それに対して、ウェールズ語 (Welsh) は健在。ウェールズに行くと、若い人たちも話しているのを耳にします。彼らは、もちろん、英語とのバイリンガルです。ウェールズ語のテレビ放送もあります。現労働党政権の地方分権政策が、スコットランドやウェールズ人の民族意識を一層強くしているようですが、その一方で、イングランド人の民族意識は逆に衰退しています。イングランドの守護聖人の祝日、セント・ジョージズ・デーがいつかすら知らないイングランド人が増えているということです。(ちなみに、セント・ジョージズ・デーは4月23日です。)

スコットランドには、イングランド人に対する差別があるようで、ときおり、こうした記事が新聞に載ります。学校でイングランド訛りで話すといじめられる、壁に「イングランド人出て行け」と落書きをされた、などというものです。同様の排イングランド人行為は80年代のウェールズで大きな社会問題となったそうです。原因は、イングランド人が安いウェールズの地価に目をつけて、別荘用に家を買い漁ったため、ウェールズの住宅価格が高騰し、ウェールズ人には手のでないものとなってしまったこと。そこで、イングランド人の別荘が放火されるなど、反イングランドムードがウェールズで強まったということです。現在では、このような話は聞きません。

南北問題

世界情勢とは逆で、イギリスの場合、経済的には、ロンドンを中心とするイングランド南部が豊かで、北部は貧しいという図ができあがっています。最近のユーロに対するポンド高は、製造業に依存する北部の経済状況をさらに厳しいものにし、南北格差は拡大しています。それに対して、イングランド南東部は、住宅ブームで、住宅価格が上がり、ちょっとしたバブルの様相すら呈しています。イングランド南東部でのインフレを抑えるために、イングランド銀行は金利を上げ、そのため、ポンドが強くなって、製造業が追い込まれ、北部の人々の生活を圧迫しているという非難が北部であがっています。このような状況で、南北の溝はさらに深まっています。先日も、ラジオのインタビューで、イングランド北部のニューカッスルの人たちが「スコットランドとイングランド南部では、どちらに親近感を覚えますか?」という質問に「スコットランド」と答えていました。

イギリスの東京対大阪

ロンドンが首都という点で、イギリスの東京に当たるならば、大阪はイギリス第二位の都市、バーミンガムと言えるでしょう。ただし、東京と大阪が平等に日本の東の都と西の都と言えるのに対して、(ほとんどの大企業が東京と大阪の両方に事務所を構えていますが)ロンドンは金融を中心とするサービス業の都、バーミンガムは、自動車産業を中心とした製造業の都、というようにはっきり特色が分かれています。また、どちらもはっきりしたお国訛りで有名です。ロンドンっ子のバーミンガムの人間に対するライバル意識はかなり強いです。

さらに狭い地域対抗意識

たとえば、ロンドンならロンドンの中にも南北対抗意識は存在しています。ここで "north/south of the border" と言うと、"border" はテムズ川を指します。たとえば、南ロンドンで生まれた人は、結婚し、子供ができて、郊外のもっと大きい家に引っ越すなどというとき、ケント州やサリー州など、さらに南に移動することはあっても、テムズ川の北側に引っ越すということはあまりないようです。この傾向は特に男性に強いように思えます。

また、たとえばスコットランドですと、エディンバラとグラスゴーの間にも、かなり強いライバル意識が存在しているようです。エディンバラの人たちは、グラスゴーの人たちを品が悪いと思っているようですが、グラスゴーの人たちは、エディンバラの人たちをお高くとまっている、と思っています。南ウェールズに行った時、パブでこんな話を聞きました。カーディガン(ウェールズ南西部)の人間は平泳ぎをする時に、内側から外側に水をかき出す代わりに、外側から内側にかき込むと、カーディフ(ウェールズ南部)では言われているそうです。(それだけカーディガンの人間はドけちだということです。)きっと同じ事をカーディガンでもカーディフの人たちについて言っているのでしょうね。

ブルーズ対レッズ

このような狭い地域内での対抗意識は、サッカーファンの間で顕著です。一つの都市に二つチームがあった場合、ここのサッカーファンは、同郷のよしみでもう一つのチームを応援すると思われるでしょうが、ところが実はその逆。他のどのチームより、同郷のチームをライバル視します。もし、あなたがマンチェスターに住んでいて、サッカーファンだと言えば、"Are you a blue or red?" と必ず聞かれます。ブルーは、マンチェスター・シティーファン。レッドは、マンチェスター・ユナイテッドファン。ユニフォーム (サッカーの場合、"strip" と言います。)の色に由来します。これがリバプールなら、ブルーは、エヴァトンファン。レッドは、リバプールファンです。このようなライバル意識を反映して、地元同士の試合は、特に "local derby" と呼ばれ、たいへん盛り上がります。。

● 一言イギリス英語講座 - "carpetbagger"

6月27日、イギリスの保険会社スタンダード・ライフの保険加入者は相互会社から株式会社への転換を否決しました。この時のニュースでよく聞かれた言葉が、"carpetbagger" 。もともとは、アメリカで、南北戦争後の再統一時代に、一儲けすることを狙って北部から南部に移動した人たちのことを指しました。今は、イギリスでは、節操の無い日和見主義者のことを言います。

90年代半ばに、同じく相互会社形態の "Building Society" と呼ばれる住宅ローンを柱とする金融会社が相次いで、株式会社の銀行に転換したことがあります。株式会社に転換される時に、相互会社の社員である住宅ローン借入者や預金者に、株式が発給されます。この株式売却利益がしばしば "windfall" と呼ばれます。日本語で言うと、「たなぼた」。予期しない幸運・金を指します。このタナボタを狙って、多くの人が、転換の可能性のありそうなビルディング・ソサエティーに少額の貯金をしまくりました。こういう人たちを「カーペットバガー」と呼ぶわけです。最近では、そのブームも一段落した感じで、スタンダード・ライフの件は、久々の大型ウィンドフォールとなるかということで注目を集めていました。

● わたしの地域対抗意識

今回は、イギリスの地域対抗意識についてお話しましたが、実は、わたしは、若い頃、大阪に対して、めちゃくちゃ偏見を持っていました。学生時代に、とてもハンサムな先輩がいましたが、残念なことに大阪出身でした。自分の子供が大阪弁を話すことに耐えられなかったわたしは(大阪のみなさん、怒らないでー!)、万が一交際を申し込まれても固くご辞退させていただこうと心に決めていたものです。(結局、余計な心配に終わりましたが。)ところが、ホームページやメールマガジンを始めてから、たくさんの大阪在住の方を知るようになりました。みなさん、バイタリティーにあふれていて、ご自分の意見を、きっぱり、はっきりと表現されます。最近では、上方ファンになりつつさえあるわたしでした。

かなりの私見ですが、もう一つ、東京とロンドンは似ていると思える点があります。それは、あの訛り。コックニー・アクセントを教養レベルの低い人のものとさげずむ人も中にはいるようですが、わたしは、あれが結構好きなのです。ハスキーな声の男性が(ここがとても重要)、あのコックニー訛りで話すのを聞くと、鳥肌が立つほど、ぞくぞくしてしまいます。そういう時のロンドン訛りというのは、江戸っ子のしゃべり方にそっくりだと思うのですね。粋というんでしょうか。江戸っ子が「そこの角をまっつぐに。」なんて言うのに似ています。かく言うわたしが学生時代に所属していたのは、落語研究会でした。今時、こんな江戸弁が本当に話されているのかどうか、東京は東京でも西の端のほうで育ったわたしにはわからないのですが、それでもやっぱりコックニーと江戸弁はかっこいい。

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