Anglo-bites

 **イギリスつまみ食い**

第32回の目次
● 太陽の恩恵
● テーブルの反則技
● 一言イギリス英語講座 - "hoover"

● 太陽の恩恵

2月11日から4泊5日で、スペインのアリカンテへ行ってきました。(どのへんか?とおっしゃる方は「イギリス人の見たスペイン」をご参照ください。)最高気温20度を越える 日もあって、極楽のようでした。日だまりの中で、暖かな太陽の光を浴びていると、「こんなにすばらしい天気を神様が与えてくれたのに、この上、何を望もう?がんばって働いて最新式のテレビを買っても、これほど幸せな気分にはなれない」という気になってくるのでした。南の国では産業があまり発達していない理由がわかったような気がしました。

このアリカンテを含むコスタ・ブランカ地方は、その南のコスタ・デル・ソルと並んで、北ヨーロッパ人に人気のリゾート地です。このあたりで、現地人と観光客を見分けるのはいたって簡単。半袖Tシャツにショーツ、サンダル履きがイギリス人・ドイツ人などの観光客及び移住者。オーバーコートを来ているのが、現地のスペイン人。この上、かなりドレスアップしていて、厚化粧だったら、間違いなく地元のスペイン人女性です。

暖かなスペインからイギリスに帰ってきたのは、最高気温6度で雨降りという2月15日の夜。思わず肩に力が入り、背中は丸くなり、肩が凝ってしかたがありません。春が待ち遠しいです。


● テーブルの反則技

ロンドンのシティー(金融街)のラーメン屋に入ると、イギリスの他の場所では見かけられない光景に出くわします。正確に言うと、異様なのは、目に映るものではなくて、耳に入るもののほうなのですが。そうです、あの麺をすする音です。あれは、イギリスではちょっとお目にかかりません。しかも、何十人もの人が一様に、ずるずるっという音をたてて、物を食べているところというのは、日本のラーメン屋以外ではまず見られないでしょう。

そもそも、イギリスでは、音をたてて食べるというのは御法度です。数年前に一度だけ、そうめんを夫に食べさせましたが、音がしてしまうと泣きそうになりながら食べていました。そりゃ、そうでしょう。あの汁のついた長い麺を一気に口の中に吸い込もうというのですから、音をたてずに食べられるほうが不思議です。わたしはなんだか拷問をしているような気分になって、それ以来、二度と夫にそうめんは食べさせていません。あの麺をすする音というのは、普通のイギリス人の耳にはかなり不快に響くようです。

一方、日本では、麺をすする音というのは、おいしそうな音ということで好感をもたれているように思います。噺家さんたちが、扇子を箸に見立てながら、つつぅーっとそばを食べるところなんて、本当に芸術ですよね。見ていて、おいしそうとついそばが食べたくなります。このへんは、文化の違いとでも言いましょうか。もちろん、日本でも他の音、つまり、くちゃくちゃと咀嚼する音などをたてることについては、不快感を抱く人も多いでしょう。以前、あるメールマガジンで、「永谷園のお茶漬けの宣伝に出てくる若い男性のお茶漬けを食べる音は、食欲をそそるか、それとも不快か。」という論争が起こりました。わたしは、話題のCMを見ていないのでわかりませんが、このへんになると、日本人でも意見のわかれるところなのですね。

ラーメンに関連しての、もう一つのテーブルマナー反則技。それは、食器を持ち上げることと食器に口をつけることです。だから、最後においしいスープをぐーっとどんぶりを持ち上げて飲んでしまうのは、イギリス人にすると、「こんなのありー?」って感じになります。この前、日本料理店で、隣りのテーブルのイギリス人男性が、ラーメン用のレンゲを使いながら、味噌汁を飲んでいるのを見ました。お椀を持ち上げたり、お椀に口をつけたりするのが、イギリス式お作法に反するのですね。もっとも、ラーメンは日本のものですので、日本式を実践しても顰蹙を買うことはありません。ロースト・ディナーで、皿を持ち上げてグレービーを飲んだりしたら、もうこれはレッド・カードものでしょうけれど。(でも、本当は、おいしいものは最後の一滴までいただきたいのはイギリス人も同じです。きっと人目のないところでは、やっているのにちがいありません。)

先日、デイリーメイル紙掲載のポール・バレル氏のエチケット講座にこんな質問が載っていました。ポール・バレル氏は、故ダイアナ妃の執事だった人です。「長年の論争に終止符を打って下さい。スープは『飲む』 (drink) のでしょうか?それとも、『食べる』 (eat) のでしょうか?」バレル氏のお答えは、澄んだスープ (clear soup) の場合は、「飲む」で、どろっとしたスープの場合には、「食べる」だそうです。王室のみなさんも、猟の合間に出されるブロス(broth)という薄いスープは、マグカップで「飲む」そうです。従って、この場合は、器に口をつけて飲んでも全く構いません。一方、ポタージュタイプのスープの場合は、「食べる」ということになり、スプーンでいただきます。スープが残り少なくなったら、スープ皿を向こう側に傾け、スプーンですくいます。(と、バレル氏は書いています。)この原則を応用すると、お吸い物は、口をつけても飲んでもOKということになりそうです。では、味噌汁は?これも、最後は、土俵は日本なので、どんな技も許されるということになるでしょう。

それから、一度口に入れたものを出すのもお行儀がよくありません。これほど重大な反則ではありませんが、日本式にお箸でつまんで一部を口に入れ、残りをご飯の上に置く、というのも、イギリス人の目にはあまり優雅には映らないみたいです。でも、これも箸という独特の文化背景あってのことなので許されます。だって、フォークとスプーンを使う場合には、一口サイズに切ることができますものね。

また、日本ではカレーはスプーンでいただきますが、イギリスでは、スプーンは子供の使うもの、という観念があるようです。(ただし、スープとデザートは別。)したがって、カレー(イギリスでカレーといえば、普通インドカレーのことですが)を食べる時には、フォークを使います。スプーンとフォークが出てきますが、スプーンはご飯を一ヶ所に寄せたり、フォークにご飯をのせたりと、補助的に使うだけで、口に運ぶのはフォークのほうです。

というわけで、今回は食べ方の習慣について日本とイギリスの違いを取り上げてみました。


● 一言イギリス英語講座 - "hoover"

「掃除機がけをする」。"do hoovering" というように、動名詞の形でも使われます。電気掃除機を最初に売り出した William H. Hoover の名前から来ています。。発明したのは、James Murray Spengler ですが、動詞として残ったのは、電機メーカーの名前のほうでした。1926年にはすでに記録に現れていますす。同じ意味に、"vacuum" という単語もありますが、まだまだ、"hoover" という単語もよく使われています。

固有名詞が普通名詞になってしまった例としては、macintosh, wellies などがあります。

macintosh はしばしば mac と略され、レインコートのこと。防水布の発明者、Charles Macintosh にちなんで、この名前で呼ばれるようになりました。マッキントッシュがこの防水加工をした布で特許を取ったのは、1823年のことです。wellies は Wellington boots の略で、ゴム長靴を表す口語です。ナポレオン戦争の時のイギリス軍指揮官で、後に首相にまでなった、Duke of Wellington にちなんで名づけられました。もともとは、ズボンの下に履く、膝丈もしくはそれより短い軍隊用の長靴を指しましたが、今日では、防水加工のしてあるゴム長靴一般を言います。このほかにも、ウェリントン公爵の名前は、コート、帽子、ズボン、料理用リンゴ、たんすなどいろいろなものの名前に残っているそうです。(昔の5ポンド札にその肖像が印刷されていましたが、なかなかいい男でしたね。彼を演じる俳優はたいてい付け鼻をしますが、あの肖像画は悪くなかったです。)


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