**イギリスつまみ食い**
第35回の目次 |
● イギリスの桜 |
● 紅茶とイギリス人 |
● 一言イギリス英語講座 - "blue blood" |
● イースターの風景 |
● イギリスの桜
2週間ほど日本に帰っておりました。この時期に帰ると、いつも話題になるのは桜です。桜がなければ、みな心穏やかにすごせるのに、と昔の人は歌に詠みましたが、日本人の桜に対する感傷というのは、やはり特別ですね。「イギリスにも桜はありますか?」とよく聞かれますが、イギリスにも桜はあります。ソメイヨシノが圧倒的な日本とは違って、いろいろな種類の桜が植えられているイギリスでは、桜のシーズンは早くて2月末くらいから、4月末まで続きます。しかも、秋には葉がオレンジ色に染まって、また目を楽しませてくれます。一粒で二度おいしいグリコのキャラメルのようなのが、イギリスの桜です。とりわけ、イギリスの紅葉には赤というのがなく、(ヴァージニア・クリーパーというアメリカ原産の蔦くらいでしょうね。)秋の色は黄色が主流であるだけに、桜のオレンジは貴重な彩りです。 |
● 紅茶とイギリス人
紅茶の消費量世界第一位ということで、イギリス人の紅茶好きは世界的にも有名です。紅茶というと、優雅なリーフティーをイメージされる方が多いでしょうが、やっぱり最近は、一般家庭では、ティーバッグを使うところが圧倒的に多いようです。丸いのやら、四角いのやら、ピラミッド型のやら、いろいろありますが、味はほとんど変わらないということです。我が家で愛飲しているのは、ピラミッド型のPGティップスです。紐はついていません。おいしいインスタント紅茶を入れるこつは、まずやかんをきれいにゆすぐこと。電気やかんが一般的です。"Put the kettle on." というイギリス英語は、「お茶いれて。」を意味します。240Vの高電圧なので、すぐに沸きます。石灰質土壌のケント州では、水道水に含まれるカルシウム分が特に高いので、前回沸かした残りをすっかり捨てるようにします。そうしないと、気持ちの悪い、白い小さな泡が表面いっぱいに浮くことになります。そして、沸き立てのお湯をティーバッグにぶつけるようにして注ぎます。そうすると、空気がティーバッグの中で循環し、味わい深いお茶がはいります。(というのがわたしの説。) こうしていれたインスタントの紅茶は、マグカップでいただきます。もちろん、ミルクティーが基本。レモンティーは、国内にレモンの産地をかかえるアメリカ人が発明したものだと言われますが、真偽のほどはどうでしょう?ミルクを先に入れるか、紅茶を先に注ぐかは永遠の議論の対象ですが、わたしはミルクを後で入れるほうの説に賛成です。紅茶の濃さにあわせてミルクの量を調節できるから、というのは、たいへん合理的な理由のようにわたしには思えます。ミルクは冷たいものを使います。パッケージ旅行でイタリアに行った時、朝食の紅茶に添えられていたのが、温めたミルクだったため、「まったく、イタリア人は紅茶のいれ方を知らないんだから・・・。」と、イギリス人たちはぶちぶちと文句を言っていました。 砂糖は入れたり、入れなかったり。わたしの観察では、労働者階級の人に砂糖を入れる人が多いようです。やっぱり、肉体を使う仕事というのはカロリーを消費するからでしょう。 「イギリス人が一日に5杯もお茶を飲むというのは本当ですか?」という質問をよくいただきますが、本当でもあり、嘘でもあります。うちの夫や舅はこのタイプですが、義理の弟はコーヒーしか飲まない人です。(ちなみに、故ダイアナ妃もコーヒーしか飲まなかった、と元執事が新聞の連載に書いていました。)一方、もう一人の義理の弟は、紅茶しか飲みません。個人差はありますが、紅茶消費量の統計から見る限り、やはりイギリス人は紅茶好きと言ってもよいのではないでしょうか。 そんなイギリス人にとって、職場の必需品だったのが、ティー・レイディー。イギリス版ヤクルトおばさんといったところでしょうか。お茶の時間になると、トロリーを押しながら、紅茶やハム・ロール、チーズ・ロール(丸い小さなパンのサンドイッチのようなもの)、ケーキなどを売りに来ます。こうした女性たちは会社によって雇われていたところが多かったようです。大きな会社の場合は、社員食堂の職員が兼務したりしていました。ところが、このティー・レイディーたちが姿を消し始めたのは、1980年代後半くらいからでしょうか。人件費削減の波には勝てません。ティー・レイディーに取って代わったのが、自動販売機(オフィスでは、無料のものが多い)でした。 紅茶に関連して、もう一つ、姿を消しつつあるものがあります。それは、クリームティーです。クリームティーというのは、スコーンにバター・ジャム(いちごが主流)・クリームをつけて、紅茶と一緒にいただくものです。ウェストカントリーと呼ばれる、コーンウォール・デボンなどの地方では、濃厚なクロテッドクリームが有名ですが、新鮮なクロテッドクリームが手に入らない地方では、重くホイップした生クリームを代わりに使うところが多いようです。(ちなみに、コーンウォール地方で作られる "Cornish clotted cream" は、シャンパン同様、その地方で作られたものしか名乗ることを許されない名称に指定されています。どちらかというと、デボンのほうがクロテッドクリームでは有名なような気がしますが、コーンウォールのほうが特別扱いされているのは、不思議ですね。)このクリームティーに、きゅうりのサンドイッチとケーキを加えた軽食に近いものを、アフタヌーンティーと呼びます。("full cream tea" と呼ぶところもあるようです。) このクリームティーというのが最近は姿を消しつつあります。例えばロンドンでできるところといっても、ちょっと思いつきません。デパートやホテルの喫茶店でアフタヌーンティーはできますが、クリームティーという、もっとカジュアルな形式のお茶のできるティールームは見つかりません。クリームティーをいただこうとすると、観光地か老人が引退してたくさん住んでいるようなところに行くしかなさそうです。回転が悪いので、ロンドンのような家賃の高いところに店を出しても割りが合わないということもあるのでしょうが、クリームティーという習慣は、忙しい現代人の生活の中には、もはや場所を見出せなくなったということのように思えます。東京と同様、ロンドンにもスターバックス・コーヒーなどのコーヒーショップが雨後のタケノコのように出現しています。スケジュールの合間にぽこっと空いた10分間で、一人でコーヒーを飲みつつ一息つくというほうが、イギリス人の現代の生活には合っているのでしょうね。とても残念なことですが、これも、現代の日本人女性に着物を着て生活することを望むようなものかもしれません。優雅な伝統も時代の波には逆らえないということでしょう。 |
● 一言イギリス英語講座 - "blue blood"
色のイメージというのは、国によってずいぶん異なるものです。たとえば、青と言えば、日本では、「くちばしが青い」、「青葉」など若々しい、あるいは未熟なイメージです。英語で青というと、憂うつ、エッチな、という意味があります。(ちなみに、スペイン語でエッチを表すのは、緑のほうだそうです。)今回は、青にまつわる慣用句をいくつかご紹介します。 Blue blood 高貴な生れ。語源については二つの説があります。一つは、スペインのカスティリア地方の、古い歴史を持つ一族に由来するというもの。"blue blood" は"sangre azul" の英訳で、この人たちは、自分たちの家系にはムーア人やユダヤ人など、外国人の血は一切混じっていないと誇っていたそうです。もう一つの説によると、15世紀のスペインでは、貴族は色が白く、色の黒いムーア人と比較すると、特に血管が青く見えました。それで、貴族の血は青いと言われたことから、この語が出来た、とのこと。いずれにせよ、語源はスペインにありそうです。形容詞は、"blue-blooded"になります。 Once in a blue moon たいへんまれに。めずらしく。月が青く見えるというのは、めったにないことなので、こういう表現が生まれたというのが最も有力な説です。別の説によると、農民年鑑のカレンダーにひと月に2回満月があった場合、最初の満月は赤で、次の満月は、青で印刷されていたことから来たそうです。一ヶ月に2回満月がある、つまり青い月がカレンダーに現れるのはめったにないことだったので、こういう表現が生れたということです。 Out of the blue 予期せずに。何の予告も無く。この場合のブルーは、青空の色から来ているようです。"Out of a clear blue sky" ともいうそうです。(わたしはこちらの表現は聞いたことはありませんが。)青空は、何の異常なこともおこりそうもない、ということを象徴 していることから、この表現が生れたようです。日本語の「青天の霹靂」に似ていますね。 Blue-eyed boy ある人に特別に目をかけられ、特別待遇を受けている人。ヒュー・グラント主演の "Mickey Blue Eye" は、マフィアに気に入られた青年を描いた映画と聞いていていますが、タイトルは、この慣用句から来ているのかも。 |
● イースターの風景
日本から帰ると、すっかり我が家周辺の景色が変わっていました。向こうの丘は菜の花の黄色で覆われ、白樺が葉をつけ始め、山桜には葉っぱだけでなく、白い花まで咲き始めました。サマータイムが始まったこともあり、夜は8時まで明るいのです。こうなると、春どころか、夏の気分にさえなります。今日、4月21日はグッド・フライデー。土曜日、イースター・サンデーの日曜日をはさみ、月曜日はイースター・マンデーで、4連休となります。(イースターについては、連載13回目のイースター特集をご覧くださいね。)イースター・デー(イースター・サンデー)の定義は、3月21日以後の満月の次の日曜日ということですので、今年のイースターは、遅めの部類に入るでしょう。通常、イースターになると、春が来た、という感じですが、このところ、イギリスでは、ぱっとしない天気が続いていて、オーバーもまだクリーニングに出せません。 さて、明日4月22日から、ロンドンをはじめ、一部のイギリスの都市で電話番号が変わります。みなさま、準備のほうはお済みでしょうか?今まで、市外局番が (0171) と (0181) に分かれていた大ロンドン圏を含むロンドンの市外局番は、(020) に統一され、これまで (0171) だったところは、それ以降の番号の頭に "7" が付き、(0181) だったところには、"8" がつくようになります。今までも、この新番号は旧番号と並行して使われていましたが、明日からは新番号しか使えなくなりますので、ご注意を。 |
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