● クリスマスの食べ物
Roast turkey and all the trimmings
もっとも伝統的なクリスマスのメインディッシュです。とはいっても、七面
鳥がイギリスにやってきたのはそれほど昔のことではありません。アメリカで
感謝祭の習慣として食べられていた七面鳥が、1650年頃、イギリスでクリ
スマスのご馳走として食卓に上がるようになりました。これ以前は、白鳥、ガ
チョウ、キジ、孔雀などが食べられていました。金持ちの家では、柊や果物で
飾られ、口にはリンゴが詰められた猪の頭が出されたそうです。(ちょっと想
像したくないですね。)
これに七面鳥を焼いた時に出た肉汁をベースに作ったグレービー (gravy)
とクランベリーソース (cranberry sauce) をかけていただきます。七面鳥と
一緒に、ローストビーフやローストポークなどを料理する家庭も少なくありま
せん。ローストビーフには、ホースラディッシュ(horseradish、西洋ワサビ
と訳されますが、緑ではなくて白です。ワサビほどでないにしろ、たくさん口
に入れるとやっぱり辛い。)、ローストポークにはアップルソース、ロースト
ラムにはミントソースと相場が決まっています。野菜は、ローストポテトの他
に、芽キャベツ(Brussels sprouts、なんでブリュッセルなんでしょうね。)
やカリフラワー、ブロッコリなどの冬野菜。形がなくなるほど、くたくたに煮
るのが伝統的調理方法です。特に、芽キャベツには、イギリス人は特別な思い
入れがあるらしく、これが店頭に現れると、立ち止まって感慨にふけっている
人が必ず見かけられます。きっとクリスマスが近いことを感じさせるのでしょ
うね。日本で見ない野菜では、parsnip(アメリカボウフウと辞書に書いてあり
ます。見てくれは、白いニンジンのようです。)というのもイギリスの伝統的
な冬野菜です。これはサツマイモのように甘くてなかなか美味だとわたしは思
います。
野菜の他には、詰め物 (stuffing) として、セイジと玉ねぎや、栗などと
ソーセージ・ミート(ソーセージ用の挽肉)を混ぜたものを七面鳥の首の部分
に詰めて焼いたり、またボール状にして別に焼いたりしたものを添えます。
ウィンナ・ソーセージ (一般的には cocktail sausages と言いますが、クリ
スマスには特に chipolata と呼ばれるものが使われます。)にベーコンを巻
いたものも七面鳥と一緒に出されます。
Christmas puddings
イギリスのトップ・クリスマス・プディングメーカーのマ
シュー・ウィリアムズの予想によると、今年は、4千万個の
クリスマスプディングが食べられるそうです。このうちの2
千5百万個は家庭で消費され、自家製のプディングを食べる
家庭は18パーセントにのぼるということです。
クリスマスプディングは、干しぶどうとスパイスとアルコールの入ったどっ
しりとした蒸しケーキのようなものです。アーモンドなどナッツの入ったもの
や、アルコール抜きのものもあります。
クリスマスプディングの前身は、"frumentry" と呼ばれるお粥のようなもの
で、その起源は14世紀にさかのぼります。これは、煮た牛肉と羊肉に干しぶ
どうと prunes (干したプラム)、ワインとスパイスを加えて作られました。
これはどちらかというとスープのようなものだったそうです。1595年まで
に、frumentry は、plum porridge とか plum pudding と呼ばれるものに進化
します。パン粉と卵が加えられ、かなりどろっとしたものになります。その後、
質素を尊んだ清教徒が勢力を持つと、クリスマスプディングは贅沢品とされ、
一時イギリスの歴史から姿を消しますが、1714年ジョージ一世の時代に復
活しました。
今日のクリスマスプディングは、この plum pudding がさらに固形化したも
ので、1670年頃に今のような形になったようです。現在でも、プラムは
入っていないにもかかわらず、クリスマスプディングはしばしばプラムプディ
ングとも呼ばれます。ふきんに包んで蒸すと伝統的なまん丸のプディング型が
出来上がるわけですが、最近スーパーで出回っているものは、容器ごと電子レ
ンジで加熱ができる (microwavable) ものがほとんどで、そのため平らなふた
のついたボウル (bowl) 型が圧倒的に多くなっています。(やっぱり、まん丸
だとお皿に乗せて切り分けるのが難しいからでしょうか?)クリスマスプディ
ングは伝統的には、ブランデーをかけ、火をつけて食卓に出されます。(わた
しは実際に試したことはありませんが、おたまにブランデーを入れて温め、そ
こに火をつけて、プディングにかけるそうです。)ブランデーバターあるいは
ブランデーソースもプディングに添えらます。もっと手軽なところでは、これ
らの代わりに、濃いめの生クリームをかけていただいたりします。
このクリスマスプディングには、いろいろな言い伝えがあります。クリスマ
スプディングは、Trinity (Trinity Sunday, 聖霊降臨祭 (Whit Sunday) の後
の日曜日)の後25週目の日曜日に作ること。キリストとその弟子を表す13
の材料を使うこと。家族全員が順番でかき混ぜること。(このために、この日
は、 "Stir-up Sunday" とも呼ばれます。)この時、キリストの生誕を祝うた
めにベツレヘムに贈り物を持っていった東方の三賢人(博士)に敬意を表し、
東から西へとかき混ぜること。また、プディングの材料を時計回りにかき混ぜ
ないと、その時にした願い事はかなわないという言い伝えもあります。(北半
球では太陽は時計回りに動いているように見えたため、イギリス土着のドルイ
ト教でも、時計と逆回りは太陽に逆らうことで、邪悪で縁起の悪いことである
と信じられていました。)こうして作られたプディングはクリスマスまで時間
をかけてねかせられます。時間がたてばたつほど、味がよくなるということで、
1年くらいはもつようです。(市販のプディングには、賞味期限2001年と
いうものもありますが。)
このクリスマスプディングを作る過程で、銀貨を入れるというのも古い習慣
です。(スーパーのクリスマスプディングではこうはいきませんね。)食べる
時に、これを見つけた人は、幸せで健康で金持ちになれるということです。そ
の他にプディングに入れられるのは、指輪です。これを見つけた人は1年以内
に結婚するといわれます。指貫やボタンをみつけた人は、独身で通す、という
ことです。現代では、銀貨の代わりに、Christmas pudding charms と呼ばれ
る、銀(あるいは銀めっき)のいろいろな形をした小さなものが入れられるよ
うです。
Mince pies
Mincemeat (と言っても肉は入っていません。
細かく刻んだリンゴ・干しぶどう・スパイス・
脂肪・砂糖などを混ぜたもの。)を詰めたパイ。
パイ皮は伝統的には、ショートクラスト
(shortcrust) と呼ばれるさくさくした歯ごたえ
のあるバターたっぷりの生地が伝統的ですが、
最近はパフ・ペイストリー (puff pastry) と呼
ばれる何層にも折られたパイ皮も人気が出てき
ました。
ミンスパイは16世紀くらいにはすでにクリスマスの食卓に上っていたとい
われます。昔は、残り物の肉や干した果物やスパイスと砂糖などで作られまし
た。伝統的にはクリスマスの4週間前に作り、冷暗所に保存しておきます。
クリスマスイブには、子供たちは、ミンスパイとスパイス入りの暖かいワイ
ン (mulled wine) やブランデー、シェリーなど体の暖まる飲み物をサンタクロ
ースのために、ニンジンをトナカイのために用意しておきます。
また、Twelve Days of Christmas (クリスマス特集の第一弾をご参照下さ
い。)に一日一個ずつミンスパイを食べるとこれからの12ヶ月間を無病息災
にすごせるという言い伝えもあります。(実行すると太りそう。)
Christmas cakes
クリスマスプディングにミンスパイとくれば、もう甘いものは結構、と思う
でしょう?ところがまだあります。これにさらに、ケーキを買う家がほとんど
です。(一度にこれら全部を食べはしないでしょうけれど。)伝統的に、イギ
リス人は干しぶどうや木の実類の入ったかなり重いフルーツケーキを好みます。
ですから、Christmas cake の代表的なものも、Cherry Genoa cake、Dundee
cake、iced cake (糖衣のかかったフルーツケーキ) などこの種のものが多
くなります。それから、Yule log (「クリスマスのうんちく」を参照)と呼
ばれる丸太の形をしたスイスロールのようなケーキもよくみかけます。また、
ユーロ時代を反映してか、ドイツ生まれの stollen (干しぶどうや干した
チェリー、マジパン、などの入ったお菓子。)やイタリアから来た panettone
(やはりフルーツの入ったケーキ。イギリスのフルーツケーキよりずっと軽い
ようです。)などヨーロッパ大陸伝統のお菓子も、クリスマスケーキとして定
着しつつあります。